「というわけで、飛鳥くん! 一緒に行きましょ!」
「何がどういうわけなんだ……」
その翌日、京ちゃんは飛鳥くんのことを誘った。飛鳥くんは眉を潜めて、京ちゃんに問いかける。
「あのな、京と湊海だけならともかく、太一先輩や、ヒカリちゃんたちもいるんだろ? 俺が行くのはさすがに場違いじゃ……」
「飛鳥くんだって友達なんだから良いじゃない! それに、サインはなるべく多く欲しいわ!」
「そっちが狙いだろ、お前!」
飛鳥くんは京ちゃんの頭を軽く小突いた。全く京ちゃんはミーハーなんだから。そういうとこも可愛いけど。
「いったたた……んもう、たまには良いじゃない。最近全然パソコン部にも来ないんだから!」
「そ、それを言われるとなあ……」
飛鳥くんは困ったように頭をかいた。よ、よし、これはもう一押しだ……!
「私も飛鳥くんと一緒に応援行きたいな。大輔くん、きっと喜ぶよ」
「大輔くんは、ヒカリちゃんや湊海がいれば十分だろうに……」
「私が、飛鳥くんも一緒がいいの!」
「う、うーん……」
飛鳥くんは苦笑いで、私と京ちゃんを見比べた。
「……賢」
「え?」
「……いや、一乗寺くんのサインなんて、貰えるのかなあって」
飛鳥くんはふと目線を逸らし、小さく呟いた。思わず私が聞き返すと、何もなかったように、にこりと笑った。
「貰えるのかなあ、じゃなくて、貰うの! 3つね!」
「わ、私も数に入れられてる……」
さすが京ちゃん。ちゃっかりというか、しっかりしているというか……。ま、私もその天才少年とやらは気になるからいいけど。
「というわけで、日曜日来てね!」
「……うん。わかったよ」
京ちゃんは、飛鳥くんの手をぎゅっと握った。さすがの飛鳥くんも諦めがついたようで、しっかりと頷いた。
「まあ行かないって言っても無理やり迎えに行ったけどね!」
「だあっ!」
京ちゃんのトンデモ発言に、飛鳥くんがすっ転ぶ。ひゅー、さっすが京ちゃん。お台場小一の爽やかボーイをズッコケさせるなんて、やるなあ。
「あっははは!」
「ホントいつも強引だよな、京って」
「そこが京ちゃんのいいとこなの!」
「……まあ、そうだな」
一波乱あったが、何とか飛鳥くんも一緒に行くことになった。飛鳥くんとお出かけなんて、いつぶりだろう。試合を見に行くのが、更に楽しみになった。
「と、いうわけなのです」
後日、私は大輔くんに、電話で事の顛末を伝えた。
『ええっ、飛鳥さんも来るの!?』
「応援は多い方がいいでしょ?」
『もちろん嬉しいけど、緊張しちゃうなあ。飛鳥さんにカッコ悪いとこ見せられないし』
「飛鳥くん、格好良いもんね」
『太一先輩とはまた違うカッコ良さだよな。なんと言うか……清々しい?』
「まるで太一さんが禍々しいみたいな言い方して……」
『ああ! 違う、違うって!』
「ふふ、じょーだん」
電話の前でわたわたと慌てる大輔くんの姿が想像できる。かわいいなあ、大輔くんは。だからつい、からかってしまう。
『冗談きついよ、湊海ちゃーん』
「ごめんごめん。とにかく、みんなで応援してるからね。大輔くんのこと!」
『サンキュー! 張り切って頑張るぜ!』
「うん! じゃあまたね!」
『おうっ!』
私はそう挨拶をして、電話を切った。
「大輔さんとお電話ですか?」
すると、足元にいたラブラモンが私にそう問いかけた。
「そう。飛鳥くんのこと、早く伝えたかったから」
「私も、飛鳥さんと会うのは久々な気がします。試合の日は是非、お話ししたいです」
飛鳥くんとラブラモンは、3年前からの仲だ。話す機会はあまりないけど、ラブラモンも飛鳥くんに好意を持っているようだ。友人とパートナー、それぞれの立場からしても、微笑ましい限り。
「うん! 飛鳥くんも喜ぶと思うよ!」
私は微笑みながら頷いた。みんなの仲が良いのは、とても嬉しいことだ。