ある日の放課後。私たちは、大輔くんのサッカーの練習を見学していた。
「でやあー!!」
大輔くんはスライディングで、ボールを奪った。その勢いの余り、相手の人が転んでしまう。すごい、なんて力強いプレイなんだ。大輔くん、ちょっとかっこいいかも……。
「わあっ!」
「大輔、ナイスプレイ!」
大輔くんのプレイに、私たちは歓声を上げた。太一さんも続けて褒めると、大輔くんは嬉しそうに鼻をこすった。
その翌日、大輔くんから次の試合の対戦相手を聞いた私たちは、インターネットで検索をかけた。
「あ、出てきたよ」
「田町少年FCの一乗寺賢くんは、大会新記録通算45得点で、チームを優勝に導いた……」
私が指をさしたところを、京ちゃんが読み上げていく。45得点って……サッカーはそんなに点が入らない競技なのに。一乗寺くんは、本当に才能がある人のようだ。運動もできて、勉強もできるなんてなあ。羨ましい。あ、芸術もできたりするのかな。絵、描いてもらいたい。
「すごいな、これまでの記録の倍以上だ」
太一さんは目を見開き、ホームページをじっと見た。
「天才っていうのは嘘じゃないみたいですね」
「相手にとって不足なしだ。こないだの大会じゃ結局対戦しなかったし……」
伊織くんが感心している横で、大輔くんは拳を握り、意気込んだ。
「決勝まで進んでたら、戦えたんだけどね」
「それを言うな!」
タケルくんの言葉に、大輔くんが牙を向く。まあ東京で決勝まで進むのは、結構難しいからねえ。仕方ないといえば仕方ない。
「勝てるの?」
「勝ち負けは関係ないよ。あいつは今、全国のサッカー少年の憧れなんだ……。戦えるってだけでワクワクしてくるぜ」
ヒカリちゃんの問いに、大輔くんは真剣な表情でそう答えた。大輔くんのこんな表情は普段あまり見ない。昨日といい今日といい、いつもの大輔くんとは少し違うらしい。普段からこうなら、もう少しモテそうなんだけどなあ。
「ねえ、だーいちゃん?」
「だ、だいちゃん……!?」
すると、京ちゃんが猫なで声で大輔くんに話しかけた。普段では考えられない京ちゃんの様子に、大輔くんの目が点になる。
「一乗寺賢くんに会ったら、サイン貰って来てくんない?」
京ちゃんは大輔くんの手を握り、そうお願いをした。
「年下には興味ないって言ってませんでしたっけ?」
「1つぐらいの差なんて、どうってことないわ。うちの母さんなんか父さんより3つ年上よ?」
そんな伊織くんの疑問に、京ちゃんは後ろを振り返って答えた。京ちゃんのお父さん、お母さんより年下だったんだ。ちょっと珍しいかも。
「そうなんだ、知らなかった」
「年下は狙い目だよ、湊海お姉ちゃん」
するとタケルくんが、私の肩をぽんと叩き、そう言った。ね、狙い目と言われてもなあ――。
「私、そういうのよくわかんないし……好きになったら年上とか年下とか関係ないんじゃない?」
「……ま、そうかもね?」
「何よ、その顔は……」
そう答えると、タケルくんはにっこり笑ってで私を見つめた。何か言いたいなら言えばいいのに。最近のタケルくんったら、私のことからかってばかり。
これも成長の証というものなのだろうか……。湊海お姉ちゃんは寂しいぞ。
「欲しけりゃ自分で行けばいいだろ?」
「あ、それもそうか……」
「じゃあみんなで応援に行きましょう!」
「えっ! 本当に?」
大輔くんが呆れながらそう言うと、京ちゃんは納得したように頷いた。それに続けて、ヒカリちゃんも提案を出す。大輔くんにとっては意外だったようで、驚きの表情を見せた。みんなで応援なんて、とっても楽しそう……!
「いいね、ヒカリちゃん!」
「でしょ?」
私が賛同すると、ヒカリちゃんはウィンクを飛ばした。くっ……、可愛すぎる……。
「よしっ、頑張るぞぉ!」
しかし大輔くんは、ヒカリちゃんのウィンク姿を見てなかったようで、ひとりで決意表明をしていた。あーもう、もったいないなあ。