今日、飛鳥たちの世界ではごーるでんうぃーくという、お休みの日らしい。
「飛鳥、結月と一緒にいなくていいの?」
「今日は父さんと母さんも休みなんだ。だから大丈夫だよ。……それに」
飛鳥は悲しそうな様子で、私に微笑んだ。
「最近、結月は俺のこと好きじゃないみたいだから」
「飛鳥……」
飛鳥が妹の結月を大切に思っていることは、よく知っている。いつだって飛鳥は結月のことを1番考えて、頑張っているのに……。昔は、結月との仲も良かったようだが、一体何があったのだろう。
「大丈夫だよ、ロップモン。湊海が言ってた。今は分かってくれなくても、いつか絶対分かってもらえるって。だから、俺の気持ちもいつか結月に伝わるよ」
「……うん。そうだね」
飛鳥は私の頭を優しく撫でてくれた。いけないいけない、飛鳥が頑張ろうとしているのに、私が落ち込んでいてはだめだ。しっかりしないと。
「ねえねえ、飛鳥。今日、湊海たちは?」
「ん? 大輔くんたちと、ピクニックに行くんだって。俺も誘われたんだけど、流石に一緒には行けないから」
「ぴくにっく?」
「うーんと、みんなでお弁当持ってきて、デジタルワールドの風景を楽しみながら一緒にお昼を食べる、って感じかな」
「そっかあ……楽しそうだね」
湊海ちゃんたちとは、この前会ったきりだ。一緒にごはんを食べるなんていつ出来るのやら……。私も、湊海ちゃんやラブラモンたちと一緒にピクニック、してみたいなあ……。
「ふっふっふー! そう言うと思って、ほら!」
飛鳥はリュックを降ろし、ごそごそと中を漁ると、お弁当箱を出した。
「張り切って作ってきたんだ。母さんにも手伝ってもらったから、絶対美味しいよ!」
「あ、飛鳥! ありがとう!」
私は弁当箱を受け取り、その場でぴょんぴょんと跳ねた。飛鳥のごはんはもちろん、飛鳥のお母さんのごはんもとっても美味しいから、とても嬉しかった。ピクニックには行けなくても、これでじゅうぶんだ。
「そんなに喜んでもらえたなら何よりだよ。あと、賢とワームモンにも作ってきたんだけど……いつものとこかな」
「呼んでくるよ!」
「その必要はない!」
「わっ!」
その大声に振り向くと、いつの間にかカイザーが目の前にいた。
「何をしている?」
「ああごめん、賢。遅くなっちゃって。お昼まだだろ? これ、良かったら……」
「ふざけるなっ!」
カイザーはそう怒鳴ると、飛鳥が差し出した弁当箱を鞭で払った。その衝撃でお弁当が地面に落ち、床に中身が散らばる。
「な、なんてことするんだカイザー! 飛鳥がせっかく作ってくれたのに!」
「弁当なんてどうでもいい! お前がこうやってふざけているから、またダークタワーを倒されただろ!? いい加減にしろ!」
カイザーは相当不機嫌なようで、飛鳥にそう怒鳴り散らした。完全なる八つ当たりである。私はふつふつと怒りが湧いてきたので、再び口を開こうとすると、後からワームモンが彼にしては早いスピードでやってきた。
「賢ちゃん!」
「ああ? なんだ!?」
「ひとの気持ちを踏みにじるようなことしちゃ、ダメだよ! 昔の賢ちゃんならこんなこと……だって、賢ちゃんの紋章は!」
「黙れ黙れ黙れ!」
「ひっ!」
カイザーはワームモンの目の前の床に、大きく鞭を叩きつけた。大きな音が辺りに響き、思わずワームモンが怯む。
「虫けらは口を出すな!」
「で、でも……!」
「いいんだ、ワームモン」
飛鳥はそう言って前に出ると、地面にしゃがんでお弁当の中身を拾い始めた。
「俺がのんきに弁当なんか作ってるから、賢は怒っちゃったんだよな」
「飛鳥……」
「賢、ごめんな」
「……ふん、次からは気をつけろ!」
飛鳥の大人な対応に毒気が抜かれたのか、カイザーは捨て台詞を吐くとこの場から立ち去っていった。全く……飛鳥は誰かさんの影響か、本当に優しいんだから。
「飛鳥……賢ちゃんが、ごめんね」
「いいよいいよ。多分、機嫌の良い時なら受け取ってくれるだろうから。ちゃんとタイミングを見ないとな」
あはは、と飛鳥は頭をかいた。
「片付けおわり! ほら、ワームモン、ロップモン。一緒にお弁当食べようか」
『うん!』
私たちは3人で仲良くお弁当を食べた。昔のカイザー……賢なら、一緒に食べられたんだろうけれど。彼は何故、あそこまで変わってしまったんだろう。いつか、前のような賢に戻る日は来るのだろうか――。