おかず交換


 私たちはレジャーシートを広げ、持ってきたお弁当をその上に並べた。みんなで仲良く、お弁当を食べる。デジタルワールドでこんなことできるなんて、夢にも思わなかった。嬉しいな。


「うちのコンビニのおにぎりなんですけどー、食べますー?」

「ツナ、マヨ……!」

 京ちゃんがツナマヨのおにぎりを差し出すと、ミミさんは感動したようで目を潤ませた。


「久しぶり、ツナマヨ! 夢にまで見たツナマヨ! ありがとおおおお!」

「あははは!」

 アメリカではツナマヨのおにぎりは無いので、よほど嬉しいらしい。私たちはそのミミさんの姿を見て、思わず笑った。


「おいし……」

「ホークモンは?」

「私は……」

 京ちゃんにそう聞かれたホークモンは、伊織くんたちの方に目を向けた。


「あっちが良いです」

「かんぴょう巻きね!」

「伊織さん、あの、かんぴょう巻きをください」

「ん、オッケーだぎゃ!」

 アルマジモンは頷くと、かんぴょう巻きを投げた。


「あっ、投げちゃダメ!」

「あっ! おわあ!」

 しかし、狙いがあまり良くなかったようで、かんぴょう巻きはそのままコロコロとどこかへ転がってしまった。ホークモンは慌てて立ち上がり、かんぴょう巻きを追いかけていく。


「わ、私のかんぴょう巻きいいい!」

「ああ、ホークモン!」

 そのホークモンの後を、京ちゃんも追いかけていった。


「お母様が作ってくださった食べ物を、そんなに乱暴に扱ってはいけませんよ!」

「伊織、ごめんだぎゃ……」

 伊織くんがそう注意をすると、アルマジモンはしゅんと頭を下げた。


「誰にでも失敗はありますよ。これ、湊海様のお母様特製卵焼きです。とても美味なので良かったら」

 ラブラモンはそうアルマジモンを慰めると、お弁当のおかずの卵焼きを差し出した。


「ラブラモンありがとだぎゃ! うん、こりゃうめえ!」

「ええっ、そんなにおいしいの!? 湊海ちゃん、俺にもちょうだい!」

「いいよ。はい、あーん」

 大輔くんが興味しんしんでこちらに寄ってきたので、私は卵焼きを食べさせた。


「うん、本当にうまい!」

「そりゃ良かった」

「……湊海お姉ちゃん!」

「うわっ!」

 いきなりの大声に、私は思わずひっくり返った。後ろを振り返ると、そこにはタケルくんが仁王立ちで待ち構えていた。


「た、タケルくんどうしたの……」

「僕のお母さんの唐揚げもおいしいよ。食べて」

「い、いいの?」

「いいから早く食べて!」

「は、はい」

 ものすごい剣幕なので、断れるはずもなく、私はタケルくんが箸で持ってきてくれた唐揚げをぱくりと食べた。元々後でおかず交換するつもりだったんだけど……うーん、タケルくんも卵焼き食べたかったのかな?


「おいしいよ、タケルくん。お母さんによろしく伝えといてね」

「……うん」

 タケルくんはこくりと頷くと、私の隣にぴったりと座った。ち、近い……。


「湊海ちゃん、今のは貴女が悪いわよ?」

「うんうん」

「な、何が……?」

 ミミさんとヒカリちゃんが苦笑いで私とタケルくんを見つめた。今日は何だかよく分からないことが多い日だ。



「ねえねえ、湊海ちゃん! タコさんウインナー食べる?」

「食べる食べる」

 大輔くんは私のお弁当にタコさんウインナーを置いてくれた。それをもぐもぐと食べながら隣のタケルくんの様子を伺う。


「………」

 タケルくんは無言で自分のお弁当を見つめていた。こんなタケルくんの様子を見るのは久々だ。――3年前を思い出すな。タケルくんは昔から、私のことをお姉さんのように慕ってくれている。私を信用してくれているから、こういう態度をしてくれるんだよね。いつもはしっかりしたタケルくんだけど、こういうところは可愛いなあ。
私は目を細め、タケルくんの頭の上にそっと手を置いた。


「……今度、またタケルくんのお家お邪魔していい?」

「……いいよ」

 タケルくんはゆっくりと顔を上げると、にこりと笑って私にそう答えた。……少し大きくなっても、タケルくんはタケルくんだ。やっぱり、タケルくんには笑顔が1番似合う。





57

前へ | 次へ



[戻る]

おかず交換

人気急上昇中のBL小説
BL小説 BLove
- ナノ -