希望と光

「あれ……光の紋章……」

 そう考え込んでいると、不意にヒカリちゃんが立ち上がった。


「え?」

「もう1つは希望の紋章よ、タケルくん!」

 ヒカリちゃんはそう言うやいなや、そちらへ駆け出していった。私たちも後に続く。そのデジメンタルの前に来ると、確かに希望と光の紋章が刻まれていた。


「本当だ!」

「では、これはヒカリとタケルのデジメンタル?」

 テイルモンがそう呟いた。


「タケル、デジメンタルを持ち上げてみて!」

「え、でも……」

 パタモンのその指示にタケルくんは表情を曇らせた。


「ダメで元々、やってみて!」

「ダメ! 私たちじゃ持ち上がらない!」

「いいから!」

 ヒカリちゃんはテイルモンの言葉に戸惑っていた。――これで持ち上がらなかったら、2人は新しい選ばれし子どもではないという事だ。太一さんや空さん、光子郎さんのように次の世代へ紋章を受け継いで貰わなければならないだろう。……もちろん、それは悪い事ではない。自分の紋章を受け継いで貰うというのは誇らしい事だと思う。

 でも……それは即ち、自分たちでは何の役にも立てないという事だ。太一さんたちは何も言わなかったが、恐らく悔しい思いをしている事だろう。仮に自分が同じ立場になったらそう思う。今がそうだから。
役に立てない自分が悔しくて、情けなくて、どうしようもなくてたまらない。ラブラモンはなお、そう思っているだろう。

 そんな矢先、私たちの前に2つのデジメンタルが現れた。希望と光。――正直これは、偶然とは思えない。だってこの2つの紋章は……。


「……大丈夫だよ。タケルくんとヒカリちゃんなら」

「湊海お姉ちゃん……でも、」

「私は!」

 私はタケルくんの言葉を遮り、大声を出した。2人の肩がびくりと揺れる。――でもこれは、これだけは、伝えなければならない。


「私は……信じてるよ。タケルくんの希望を。ヒカリちゃんの光を」

 3年前の冒険で、私たちは何度も助けられた。エンジェモンがデビモンを倒さなければ私たちはあそこで力尽きていたし、エンジェウーモンがいなければ、ヴァンデモンを倒せなかった。
そして、タケルくんの希望とヒカリちゃんの光ががなければ、アグモンとガブモンは究極体に進化出来なかった。ピエモンを倒す時だって、 データに分解された時だって……。

 私はタケルくんとヒカリちゃんの手を握った。


「これを受け継げるのはタケルくんとヒカリちゃんしかいない。この紋章は、私に……私たちにとって、特別なものだから」

 希望と光は、いつだって私たちを導いてくれた。――私はずっと、憧れていたのだから。タケルくんの希望に。ヒカリちゃんの光に。


「……今の私じゃ、大輔くんたちを助けられない。だからね、もう一度見せて欲しいんだ。君たちの……希望の光を!」

 私の中の希望も、光も、全て託そう。――きっと、この2人なら大丈夫だから……!


「……分かった!」

 タケルくんは少しの間呆然としていたが、そう返事をしてくれた。ヒカリちゃんも私の手を握り返し、しっかりと頷く。
そして2人はデジメンタルの前に立った。――その時、2人のポケットがそれぞれピンクと黄色の光を放った。


「デジヴァイスが光ってる!」

 タケルくんとヒカリちゃんがデジヴァイスを取り出すと、形が変わり始めた。そして――。


「これは、大輔くんたちと同じデジヴァイス!」

「どうして……」

 タケルくんが小さくそう呟く。2人のデジヴァイスは、白地をベースに外側はピンクと緑色になっていた。――やっぱり、タケルくんとヒカリちゃんは……!
2人はデジメンタルに手を掛けると、そのまま簡単に持ち上げた。


「軽い……!」

「持ち上がった!」

 その瞬間、デジメンタルのあった穴からピンクと黄色の光が溢れた。


「パタモン、アーマー進化! 天かける希望、ぺガスモン!」

「テイルモン、アーマー進化! 微笑みの光、ネフェルティモン!」

 パタモンはペガサスが鎧を纏ったようなデジモンに、テイルモンはスフィンクスのような仮面を被ったデジモンにアーマー進化をした。どちらも羽が生えており、とてもカッコいい。……良かった。私は小さく笑った。2人が悲しむ事は、無かったんだね。


「パタモンと、テイルモンが、アーマー進化した……」

 伊織くんが呆然とそう呟いた。


「私たちだったんだ……! 私たちのデジメンタルだったんだ、ネフェルティモン!」

「良かった、ヒカリ! これで私たちも戦える!」

 ヒカリちゃんとネフェルティモンは喜び合った。ネフェルティモンの表情は分からないが、恐らく喜んでいる。多分。


「タケル!」

「うん! これでもう、足でまといじゃないね」

 そのタケルくんの言葉に、私の胸はズキズキと痛んだ。――相変わらず私は、役に立たないままだ。ごめん、みんな。ごめん、ラブラモン……。
私はぐっと目元を拭った。役に立たなくても、足でまといでも、やる事はやらないと……!


「……よし、大輔くんたちのところへ行こう!」

『うん!』

 私の呼びかけに、タケルくんたちは頷いた。私とラブラモンはネフェルティモンに乗せて貰い、大輔くんたちの元へ向かった。待っててね、大輔くん、京ちゃん!






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