放課後。帰りの会が終わったのと同時に、京ちゃんは教室の外へ飛び出した。ちなみに今日も、飛鳥くんは部活に来ないらしい。「俺が行っても邪魔になるだろうし……」なんて言っていたが、もちろん私たちはそんな事思わないし、大輔くんたちだってそうだろう。――それとも、何か他に理由があるのかな……?
「湊海ちゃん、行くわよ!」
「ま、待ってよ京ちゃん……」
私は先で手を振る京ちゃんを追い掛けた。いつもは飛鳥くんを心配している京ちゃんも、今日に限ってはそういう訳にいかない様子。
「ほら!」
「うわあ! 速い、速いって!」
京ちゃんはこちらに戻って来ると、私の腕を引っ張り、ズンズンと前へ進んだ。
「伊織くん!」
「京さん、湊海さん!」
「さ、伊織も急ぐわよ!」
「あ、はい!」
するとその途中で、伊織くんと鉢合わせになった。 京ちゃんは伊織くんの腕も掴み、スピードを上げていく。だ、だから速いって……!
パソコン室の前にたどり着くと、ようやく私たちは解放された。思わず2人で苦笑いし、ほっと息をつく。その間に京ちゃんは勢いよくパソコン室の扉を開けた。そこにいたのは――。
「あれ? 泉先輩?」
「光子郎さん!」
京さんと私の声に光子郎さんはパソコンから顔をあげた。
「お邪魔してます。ちょっと昨日の事が気になって……」
「僕も昨夜は眠れませんでした。今日こそは連れて行ってください。デジタルワールドに」
「でも、ゲートが……え?」
その瞬間電子音が鳴り、光子郎さんがパソコンの画面を見る。すると光子郎さんは目を見開いた。
「ゲートが、開いた……!」
「……さっきまでは閉じていたんですか?」
「はい……」
私は顎に手を当てた。何故いきなり――?
「よーっす!」
「こんにちは!」
丁度その時、大輔くんたちがやって来た。空さんと太一さんも一緒だ。
大輔くんたちはみんなにデジヴァイスを見せていた。
「これが新しいデジヴァイス?」
「俺がデジメンタルから出した、3つのデジヴァイスだ」
太一さんが空さんにそう説明をした。
「ねえ! 早く行きましょうよ、デジタルワールドに!」
「へっ! デジタルワールドってのは、おっかねえトコなんだぜぇー?」
「1回行っただけでエラそうに言わないでよ!」
「多少の危険は覚悟の上です」
そんな京ちゃんたちの会話を聞きつつ、私と光子郎さんはパソコン室のパソコンを調べて回った。
「湊海さん、どうでした?」
私が首を横に振ったのを確認し、光子郎さんはみんなに向き合った。
「やっぱり、他のパソコンに問題はありません。どうも、このパソコンだけに局地的なゲートが開かれているみたいなんです」
光子郎さんはパソコンの前に移動しながら、話を続けた。私もみんなの所へ戻り、ゲートを見つめる。
「でも、2日続けてゲートが開くなんて事、今までにはありませんでした」
開いたとしても、長く持って数時間、下手をすれば数十分、数分でゲートは閉じてしまっていた。ずっと開きっぱなしなんて事は無かったし、ましてや2日連続なんて有り得ない。――しかし、その今までの常識は昨日と今日の2日間で破られてしまった。
「……そうですよね、前に開いた時も」
「とにかく行こうぜ! デジタルワールドへ!」
しかし大輔くんは私の言葉を遮り、そう言い放った。大輔くんは私を見ると「あっ」と声を漏らした。
「わ、わり……」
「大輔くん……光子郎さんのお話、ちゃーんと聞いてたのかな……?」
「いひゃい! いひゃいって!」
私はぐいーっと大輔くんの頬を伸ばした。とにかくって何だ、とにかくって。
『まあまあ』
「………」
タケルくんとヒカリちゃんに宥められ、私は渋々手を離した。
「んな事言ったって、ゲートは開いてんだからいいじゃんか!」
「それは、そうだけど……」
私は下を向いてそう呟いた。
ゲートが開く事……、もちろんこれは悪い事ではない。ただ、良い風に考えられるかと聞かれると――そういう訳にもいかないだろう。あの頃と違って今は、色々な事を知ってしまっているのだから。私は気を紛らわすように、自分のデジヴァイスを両手で包んだ。
そんな私の様子を見て、大輔くんは私の肩をぽんと叩いた。
「……湊海ちゃん、大丈夫だよ!」
大輔くんのその笑顔に、幾分か肩の荷が降りたような気がした。
「……うん。ごめんね」
私がそう謝ると、大輔くんは「何謝ってんだか!」と明るく言ってくれた。……大輔くんのそういう所、やっぱり好きだな。
「とにかく行こうぜ! デジタルワールドへ!」
私たちは大きく頷いた。ラブラモンたちも待ってるだろうし、ね!
――その時だった。
「おお、八神じゃないか!」
こ、この声は……。私と京ちゃんは顔を見合わせた。
「久しぶりだな」
「藤山先生!」
太一さんが驚いた様子で先生を呼んだ。や、やっぱり!
「武ノ内に泉まで……卒業生が揃って何やってるんだ?」
「せ、先生こそ、何しに来たのさ?」
「俺はパソコン部の顧問だ!」
先生は胸を張って誇らしく宣言をした。
『ええ!? 先生、パソコン出来るの?』
「もちろん、出来ん!」
『はあ……』
太一さんと空さんは肩を落とした。
この先生、時々来ては私たちにパソコンを教えるようせがんでいる。――それで良いのか、パソコン部顧問。
「あ、そうだ!」
すると太一さんは前に出て、先生をどんどんパソコン室から追いやった。
「お、俺、ちょっと先生に聞いて欲しい事があるんだけど……」
「ん、何だ?」
「俺最近、中学の授業についていけなくて……まあ、ここじゃなんだからさ!」
パソコン室から出る直前、太一さんは私たちはピースサインを送った。さっすが太一さん!
「サンキュー、太一!」
空さんはその様子を見て、くすりと笑った。
「じゃあ、今のうちに」
光子郎さんのその言葉に、私たちはデジヴァイスを構えた。――いざ、デジタルワールドへ!