しばらく経った頃。ようやく私の涙は収まった。グズグズと鼻を啜っていると、賢ちゃんがティシュを渡してくれる。
「ありがとう……」
私はティシュを受け取り、鼻をかんだ。気づけば、ラブラモンとワームモンは私たちの横ですやすやと眠っていた。
「一体、何があったの?」
私が落ち着いた頃を見計らい、賢ちゃんはそう尋ねた。
「……実は」
私はぽつりぽつりと話を始めた。賢ちゃんは頷きながら、私の話を聞いてくれた。事の経緯を全て話し終え、私ら大きく息をついた。
「……賢ちゃん、とってもいい子なのに。タケルくんだって、仲良くなれるはずなのに。タケルくんちっともわかってくれないの。あんなタケルくんなんて……タケルくん、なんて……」
いつだってタケルくんは、私の味方をしてくれたのに……。何が正しいか、わかっているはずなのに……。なんで……、なんで……!
私はぼすんと、地面を殴った。大嫌いと言おうとしたはずなのに、やっぱり嫌いになれない。――なれるはずが、なかった。
「ありがとう。僕のために怒ってくれて……」
賢ちゃんは微笑むと、私の背中を撫でてくれた。
「でも、高石くんは当然のことを言っている。許されないのは……仲間に入れもらえないことだって、本当は当たり前のことなんだよ」
「……賢ちゃんはやっぱり優しいね。こうやって私の話聞いてくれて、タケルくんのことフォローして……」
「ううん。違うよ。湊海さんが優しくしてくれたから……僕のことを考えてくれたから、そういう風に言えるんだ。飛鳥さんだって。だから、僕は貴女たちがいてくれれば、充分心の支えになるよ」
「賢ちゃん……」
賢ちゃんの言葉は、すうっと心の中に入ってくる。荒れてていた私の心も、いつの間にか穏やかになっていた。賢ちゃんには不思議な魅力がある。どんな人でも、どんな状態でもほっとできる――そんな魅力が。
「あ、そうだ。これ……」
そう賢ちゃんが取り出したのは、おしゃれな紙袋だった。私は思わず、目をぱちくりとさせた。
「これは……?」
「ふふ、開けてみて」
その言葉通り開けると、そこには
貸していたハンカチと、髪留めが入っていた。
「わあ、かわいい……!」
私は髪留めを手に取って眺めた。小さいながらも精巧にできているそれは、うさぎの形をしていた。ベースはピンクで、ビーズがキラキラと散りばめられている。
「今までのお礼。ママと一緒に作ってみたんだ」
「え、手作り!? すご……!」
「ママにからかわれちゃって大変だったよ」
賢ちゃんは恥ずかしそうに笑ったが、そっと私の髪を撫でた。
「……まあ、あながち間違えじゃないかもしれないけど」
「なにが?」
「なーんでも。良かったら、つけてあげる」
「じゃ、じゃあお願いします……!」
賢ちゃんは頷くと、私から髪留めを受け取った。前髪を軽くわけると、そっと髪留めを付けてくれた。
「うん。やっぱり似合ってる。とっても可愛いよ」
「えへへ、そうかな。ありがとう賢ちゃん」
私は頬をかいて、賢ちゃんにお礼を言った。可愛いと言われるのは、やっぱり照れてしまう。
「元気、出た?」
「……うん」
「高石くんのこと。許してあげて。きっと湊海さんが大好きで、そんなこと言っちゃっただけだから」
「そう、かな」
「そうだよ。だからもう一度、話してみて欲しいな」
「……わかった」
私がそう返事をすると、賢ちゃんは満足げに頷いた。ありがとう、賢ちゃん……。それと、ごめんね。迷惑かけて。