大喧嘩

「……どういうつもり?」

「パタモンたちがいたら止められるから。きっと」

 私が眉を顰めて訊くと、タケルくんはそう答えた。


「もうこの際全部言う。あんた、一体どういうつもりなんだ?」

 タケルくんはぎろりと私のことを睨んだ。いつかのヤマトさんを思い出すその表情に一瞬怯んだが、私はこう答えた。


「なにが? 全然話が見えてこないんだけど」

「一緒に見てきたよね。一乗寺が何をしたか」

「……それは、そうだけど」

 私はそのタケルくんの発言に、言葉を詰まらせた。確かに、カイザーのした行動は簡単に許されることではない。


「闇の力だって使うのも見た。湊海お姉ちゃん、パタモンが死んじゃったとき、一緒に悲しんでくれたよね。ずっと気にかけてくれてたよね。あれはウソだったの?」

「違う、私は本当に……!」

「じゃあ何で、貴女はあいつに肩入れしてるんだよ!?」

 タケルくんは壁を思いっきり殴り、私のことを睨みつけた。


「何が賢ちゃんだ、何が仲間だ! 僕より……僕たちより、あいつの方が大事だっていうのか!?」

「違う、違うよタケルくん……!」

 私が首を横に振ると、タケルくんは息をついて少し冷静さを取り戻した。


「……飛鳥さんは、まだわかるよ。だって元々あいつの仲間だったみたいだし。でも……でもあんたは違うだろう。3年前からずっと、僕と一緒だったのに……なんで……」

 タケルくんはぐっと唇を噛むと、私の肩を揺らした。


「……何でなんだよ! 何で僕じゃダメなんだ!? 僕はそんなに頼りない? 何で……何で僕を選んでくれないんだ!?」


「……ごめんね。タケルくんの気持ちはわかるけど。私、賢ちゃんのことも放っておけな……」

「だから、それがわかってないって言ってんだろ!?」

 タケルくんは私のことを思いっきり押し飛ばした。突然のことにバランスが取れず、私は尻もちをついてしまう。


「いった……」

「僕たちとあいつ、どっちが大事なわけ!? 本当意味わからない! あんたの気持ちなんて、全然わかんないよ!」

「なんで……」

 私ゆっくりと立ち上がり、タケルくんを睨んだ。一気に喋ったからか、興奮しているからか、彼は肩で息をしている。分からずやは、どっちだよ……!


「なんでそんな風に言われなきゃいけないの!? どっちが大事とか、どっちも大事に決まってるじゃない! タケルくんも賢ちゃんも、同じ選ばれし子どもで……」

「またそれか! また仲間だとか、そんなこと言うのか!」


「そうだよ、いけない!?」

「ああ、ダメだよ! あいつを仲間に入れる? 馬鹿も休み休み言ってくれ! そんなこと、僕が絶対に許さない!」


「タケルくんにそんなこと言われる筋合い無いよ! 京ちゃんや、大輔くんだって、賢ちゃんのことを……!」

「はっ、また大輔くんかよ! 僕はダメでも、大輔くんは良いんだな! そんなに嫌かよ、そんなに僕が嫌いかよ!?」


「……何なの、何でそんな言い方するの!?」

「そっちがいつまで経っても、僕のことをわかろうとしないから!」


「わかんないよ! そんなこと言うタケルくんなんて、わかんない! そんなタケルくんなんて、私……私……!」

 大っ嫌いだと言おうとしたそのとき、勢いよく扉が開いた。そちらを見ると、息を切らした様子の京ちゃんと飛鳥くんがいた。ふたりは慌てた様子で私たちの間に入る。


「何してんの、あんたたち!」

「ふたりの声、廊下まで聞こえてたぞ!?」

 京ちゃんは私の腕を引っ張り、タケルくんから離れさせた。飛鳥くんもタケルくんの肩を抱き、こちらと距離を取らせる。


「京ちゃん……どうして……!」

「ボロモンたちが私たちを呼びにきたよ。湊海ちゃんたちの様子がおかしいって」

「私はおかしくなんてない! おかしいのは、この……!」

「落ち着けって、今の湊海も全然冷静じゃないぞ!」

 私は京ちゃんの拘束を取ろうと暴れたが、飛鳥くんにも抑えられ、動けなくなってしまう。


「はあ……もう、この前からおかしいと思ってたけど。ふたりとも、いい加減頭を冷やしなさい」

 京ちゃんはため息強くと、私の頭をぽんぽんと叩いた。


「でもっ!」

「……こんな様子じゃ、みんなで復旧作業もできないな。今日は俺と湊海でやろう」

「わかった。大輔たちには伝えとくわ」

「ほら、行くぞ湊海」

 ふたりは勝手に話をつけて、頷き合う。飛鳥くんは私の手を取り、パソコンの前に立とうとした。


「嫌だ、まだ話が! あの分からずやと……!」

 私はそれを振りほどこうとしたが、 ロップモンとラブラモンにも脇を固められてしまう。


「もう、湊海ちゃんったら……」

「飛鳥さん、お願いします……」

「うん。デジタルゲートオープン! 選ばれし子どもたち、出動!」

「嫌だっ、離せ、離せええええ!」

 私の叫びも意味なく、デジタルワールドに飛ばされていった。



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