こっちを見て


 夕暮れどき。賢ちゃんは私たちに向かって頭を下げた。


「弁解はしません。本当にすみませんでした」

 その賢ちゃんの謝罪に、大輔くんたちは顔を見合わせて何も答えなかった。


「ところで、あの女の人は一体何者なの?」

 その空気を払拭するように、パルモンはそう訊いた。


「僕も知らない。今分かっていることは彼女がダークタワーからデジモンを作れること、彼女が近づくとダークタワーが昔の機能を取り戻すことくらいだ」

「でも、どうして知ってたのに、教えてくれなかったの?」

「それは……」

 京ちゃんの質問に、賢ちゃんは言葉を詰まらせた。


「僕と賢ちゃんだけでカタをつけなきゃって思ったから……」

 賢ちゃんに代わり、ワームモンが答える。私たちに教えてくれなかったのも、そういう理由らしい。


「そういうところが水くせえんだよ!」

「でも、全ての責任は僕にある」

「だから、仲間になれないってわけか?」

 賢ちゃんは大輔くんの質問に答えなかった。


「じゃあ、僕はこれで」

「おい、一乗寺!」

 賢ちゃんは帰っていったが、立ち止まってDターミナルを取り出す。それを読むと、こちらを振り向いた。
京ちゃんはにこやかな表情でDターミナルを持ち、賢ちゃんを見ていた。

 賢ちゃんは前を向くと、また歩き始めた。


「なんて送ったの?」

 帰り道、私はこっそり京ちゃんに訊いた。


「仲間になれる日を待ってるわ。今日は本当にありがとうって」

「……きっと、賢ちゃんも喜んでるよ」

「そうだといいけどねぇ」

 京ちゃんはあっけらかんとした様子で笑った。さっきの出来事で吹っ切れたようで、京ちゃんの雰囲気は随分明るい。私はそんな京ちゃんの様子を見て、微笑んだ。



「ま、こそこそとしてる人はいるみたいだけどね」

「……だから、何なの。昨日から」

 私は後ろを振り返り、タケルくんのことを睨みつけた。


「別に。またどこかの誰かさんと内緒話してたみたいだから」

「……タケルくんには、関係ないじゃない」

「何それ。あいつには仲間づらして、僕にはその態度? 湊海お姉ちゃんって、そんな人だったんだ」

「ちよ、ちょっとタケルくん……?」

 タケルくんの剣幕に、思わず京ちゃんが間に入る。――昨日から京ちゃんに迷惑かけっぱなしだ。私は頭を振り、正面を向いた。もう相手にしてられない。


「……何も聞かなかったことにしてあげる。明日には、いつものタケルくんに戻ってね」

「やだなあ。湊海お姉ちゃん。僕はいつも通りだよ?」

 私は嫌な笑い方をするタケルくんを無視して、ヒカリちゃんのところに行った。ヒカリちゃんの腕をぎゅっと掴む。


「あら、湊海お姉ちゃん。どうしたの?」

「……何でもない」

 そう。何でもないんだ。タケルくんはきっと、明日にはいつものタケルくんに戻ってくれる。私はそう思っていた。このときは。


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