俺たちはカラフルなブロックを背もたれにして、地面に座り込んだ。
「……ごめんなさい」
「おいおい、いきなりか?」
俺が笑いながら言うと、賢は首を横に振った。
「……謝ったって、許されることじゃないと思う。正直、飛鳥さんが話しかけてくれる意味も僕にはわからないんだ」
「賢……」
ロップモンとリーフモンは、他の赤ちゃんデジモンたちと元気に遊んでいる。賢はその風景をじっと眺めていた。
「……僕は、あんなに尊いものをたくさん奪ってきたんだ。もしこの世界に裁判があったら、死刑間違えなしだよ」
「そんなこと言わないで……。自分を追いつめちゃ、ダメだよ」
俺は賢の肩に手を乗せたが、彼はこちらを見ようともしなかった。
「……優しくしないで。僕に優しくしちゃ、ダメだ」
「嫌だよ。賢は仲間だろ。それはずっと変わらないって、言ったじゃないか」
「……なんで、なんでそんなことが言えるの」
賢はようやく、こちらを見た。複雑な表情をして、俺を見つめている。
「本当の賢を知ってるから。賢はあんなことをする人間じゃない。何があったかは、分からないけど……自分の意思でデジモンカイザーになったわけじゃ、ないと思うんだ」
「飛鳥さん……」
賢は小さく俺の名前を呼んだ。――そうだ。初めて出会って、一緒に冒険をして、もし本当に賢があんなことをする人間なら、俺は一緒にいようなんて思わなかった。ワームモンだってきっとそうだ。賢は賢のままだと信じ抜いていたから、自ら犠牲になって……本当の賢を取り戻そうと頑張ったんだ。
「……こんなこと言うのは、ずるいと思うんだけど」
賢はそう前置きをして、ぽつりぽつりと話し始めた。
「僕、デジモンカイザーだったときのこと、朧げにしか覚えてないんだ……。なんであんなことをしてしまったかも、よくわからない……。わからないけど、とんでもないことをしでかしてしまったってことはわかる。わかるからこそ、償いをしなきゃいけないと思うんだ……」
賢は拳を強く握って、前を向いた。カイザーだったときのことをあまり覚えていないというのも、自分がなった理由もわからないのは、少しおかしい話だと思う。おかしいというのは、賢のことではなく、なぜそんなことになったかわからないという意味だ。外的要因があるとしか思えない。でもそれが何かは――。
それでも賢は、自分のやってしまったことと向き合うつもりらしい。
「……賢の気持ちはわかったよ」
「……うん」
「でも、俺だってカイザーの手伝いをしていたし、同罪だと思うんだ」
「そんな……だって、飛鳥さんは……!」
賢は立ち上がり、俺の方を見た。
「ほら、やっぱり優しい。俺の心配してくれるなんて」
「だって、飛鳥さんは何も悪くないじゃないか!」
「そんなことないさ。俺だって止められなかった……。同じなんだよ」
俺も立ち上がり、賢の手をぎゅっと握った。
「だから、一緒に頑張ろう。デジタルワールドを復興するために」
「でも、飛鳥さん以外の人はそんなこと……」
「それはどうかなぁ」
「え?」
俺はポケットから手紙を取り出し、賢に渡した。
「これ……」
「湊海から。結城湊海。知ってるだろ?」
俺が尋ねると、賢は小さく頷いた。
「賢に渡して欲しいって預かったんだ。読んであげてくれないか?」
「……わかった」
「うん。じゃあ今日はもう帰ろう。ゲートまで送っていくから」
「悪いよ……」
「いいからいいから。遠慮しないの」
「あ、押さないでよぉ」
俺は賢の背中をぐいぐい押し、ロップモンたちの方へ向かった。
「じゃあ、また」
「またな!」
帰り際にはだいぶ、賢は笑顔になっていた。俺たちと一緒に行動してくれるかはわからないけど――。久しぶりに賢の笑顔を見られたのは、良かったと思う。
「……湊海、頼んだぞ」
俺は小さく呟いた。――湊海の思いも、俺の思いも、きっと賢に伝わる。