見られたくない姿

 私たちは急いで、大輔くんたちの元へ向かっていく。


「あー誰もいないよー?」

 パタモンが首を傾げる。大輔くんたちはおろか、デジモンたちすらいなかった。


「おかしいわね、みんなどこにいっちゃったの?」

 ヒカリちゃんが首を傾げる。


「おーい、隠れてないで出てこーい!」

「大輔くーん!」

「ブイモーン!」

 パタモン、そしてタケルくんとテイルモンも続けて呼んでみたが、返事が返ってくることはなかった。

 なかなか見つからない大輔くんたちを探していると、大輔くんたちと作業をしていたヌメモンとレッドベジーモンが丸太の上で項垂れていた。
どうやら大輔くんはヌメモンたちに頼んで、着ぐるみに入った大きなデジモンに化けさせたらしい。それでブイモンを進化させようとしたとか。


「ふーん……。大輔くんとブイモン、成熟期に進化するための練習をしているって?」

「大輔くんったら何を考えているのかしら……」

 私たちは顔を見合わせた。ブイモン、3つも進化できるのに、更に進化しようとするとは贅沢な――。でも確かに、ブイモンたちも普通の進化はできるはず。何か進化したい理由でもあるのかな? ウルトラエンジェモンになりたあい、みたいな。



『助けてくれえええ!』

「え?」

 その声で後ろを振り返ると、大輔くんとブイモンがいた。


「大輔くん!」

「ブイモン!」

 2人は私たちの前で立ち止まった。肩で息をしている。


「どうしたんだ? そんなに慌てて」

「うおおおお!」

 タケルくんが尋ねると、竹が生えている雑木林の方から唸り声が聞こえてきた。


「……トータモンが気持ち良くおしっこしてるとこを、見てしまったってぇ?」

『うん』


 大輔くんたちから聞いた事情は、かなりくだらないことだった。タケルくんは呆れた様子で、素っ頓狂な声をあげる。


「それは大輔くんとブイモンが悪い」

「あたしもそう思うな」

「僕も思う」

 ヒカリちゃんとテイルモン、パタモンが立て続けに大輔くんたちを批難した。


「悪いって言うか……」

「タイミングの問題と言いますか……」

 私とラブラモンは顔を見合わせた。いやでも――えっと、所構わずおしっこする奴なら見られても仕方ないのでは?
私は見られたくないからトイレでするけどね!


「やっぱりそうだよな……」

「でも、見えちゃったんだからしょうがないだろ? 誰もあんなもん、見たかないよ」

「あーあ、見なければよかった」

 ブイモンがそう言ったと同時に、また唸り声が聞こえた。振り返ると、その問題のトータモンが、すごい勢いでこちらへやってきていた。


「ぐおおおお!」

「うわあ!」

「わあっ!」

 私たちは急いで木材の影に隠れた。過ぎ去ったのを確認し、元の場所へ戻る。


「誰にも見られたくない姿って、あるもんな……」

 タケルくんが小さく呟く。まあ、トイレとかお風呂とか、怒る様とか色々……ね。


「でも大丈夫?」

「何が?」

「大輔くんたちほっといても……」

 ヒカリちゃんは心配そうに、大輔くんたちが過ぎ去った方を見つめた。


「心配しなくても大丈夫よ」

「トータモンって、そんなに悪い奴じゃなさそうだから」

「まあ、そのうち飽きるでしょう」

 そのデジモンたちの意見に、私たちは放っておくことにした。決して面倒くさかったわけではない。私たちは復興作業をしなければいけないのだ。――ごめんね、大輔くん!



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