必要とされるもの


 山岳地帯では、木々がたくさん倒れてしまい、周りはすっかり寂しい感じになっていた。ひとつずつ苗を植えて、ジョウロで水をやる。なかなかの肉体労働で、私は額の汗を拭った。でも、デジタルワールドのために、デジモンたちのために、ここは私が頑張らないと。



「……湊海お姉ちゃんってば!」

「うわっ」

 突然の大声に、私は尻もちをついてしまう。上を見上げると、タケルくんが怒った様子で私を見ていた。


「ど、どうしたの……?」

「さっきからずーっと呼んでるのに、何で気づかないのさ」

「えっ、本当? ごめん、集中してて……」

 私は土を払いながら立ち上がり、タケルくんに謝った。


「……まあいいけど。あんま無理しちゃダメだよ」

「うん」

 私が頷くと、タケルくんは苦笑いした。


「そう言っても聞かないからなあ……」

「失礼な、大丈夫だよ」

「はいはいわかりました。いいよ、僕がちゃんと見とくから」

「んもう!」

 タケルくんは私の頭をぽんぽんと撫でた。だーかーらー! 年下扱いしないの! 私の方がお姉さんなのに!


「それよりさ、デジタルワールドのことなんだけど……」

 そのタケルくんの発言に、私は眉をひそませた。


「……もしかして、さっき伊織くんが言ってたこと?」

「やっぱり、湊海お姉ちゃんも気になってたんだね。ヒカリちゃんと合流して、少し相談しない?」

「そうしようか」

 私たちは頷き合い、ヒカリちゃんのいる田園地帯へ向かった。


「テイルモーン!」

「ヒカリちゃーん!」

 ヒカリちゃんたちはバケツを縄で使い、川から水を引いていた。


「湊海お姉ちゃん、タケルくん!」

「ラブラモン、パタモン! どうしたの?」

 ヒカリちゃんたちは驚いた様子でこちらを見つめた。



「タケルが心配している、気に掛かることがあるって」

「湊海様も同じことを考えてるみたいです」

「何が心配なの?」

 パタモンとラブラモンの説明に、ヒカリちゃんは手を止め、私たちと向き合った。


「僕たちがデジタルワールドに来られるってことは?」

「……私たちがデジタルワールドに必要とされているからでしょ?」

 タケルくんの質問に、ヒカリちゃんはそう答えた。


「3年前は確かにそうだった」

「じゃあ……今は?」

「必要とされているかどうか……」

 タケルくんの頭の上のパタモンが眉をひそめる。


「もちろん私にとって湊海様は必要ですが……デジタルワールドと聞かれると……」

 ラブラモンは顎に手を当て考え込んだ。――そう。カイザーがいなくなった今。本来なら私たちはデジタルワールドに必要にされることはないのだ。


「でも、破壊されたデジタルワールドの復旧作業には……必要じゃないの?」

「復旧活動はあくまで私たちのボランティア活動だから……」

 テイルモンの疑問に、ヒカリちゃんは 腕を組んだ。多少なりともデジタルワールドの役には立っているものの、これは私たちが自主的にやっているだけだ。必要かというのは、また違う問題になってくる。


「デジタルワールドに来られたってことは、デジタルワールドが僕たちを必要としているんだ。危機が迫っている」

「うん。敵が本当にカイザーだけなら、私たちが呼ばれることはないはずだよ」

 タケルくんと私の発言に、ヒカリちゃんは目を見開いた。


「それってつまり、新たなる敵ってこと!?」

「ええっ!?」

 驚いたパタモンはタケルくんの頭から離れ、私たちを見つめた。


「それはわからない。でもこのことは、みんなに伝えておいた方がいいと思うんだ」

『うん』

 ヒカリちゃんとテイルモンは真剣な表情で頷いた。



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