別れ

「……ワームモン」

「ワームモン……?」

 チビモンの声に、賢ちゃんは顔をあげた。ヒカリちゃんが心配そうに、ワームモンに寄り添う。テイルモンがじっとワームモンの様子を見た。


「まだ息がある……」

 テイルモンは小さく呟いた。


「……昔の賢ちゃんに、戻ってくれたんだ」

「……昔?」

「その方が、似合ってるよ……」

 賢ちゃんがこちらに近づいてくると、ワームモンはそう話した。


「そうか……。お前、やっぱり本当は……」

 そのとき、大輔くんが持っていた紋章が光り始めた。呆然と眺めていると、その紋章は賢ちゃんの元へと向かっていく。


「動力室でさ、その紋章の声が聞こえた気がしたんだ。本当の持ち主のところに、帰りたいって」

 大輔くんが賢ちゃんに向かってそう話した。


「本当の、持ち主……?」

 賢ちゃんが手のひらを出すと、紋章はその上にゆっくりと着地する。


「それは、賢ちゃんの……優しさの紋章だよ……」

「これが僕の、優しさの紋章……」

「優しさが、黄金の輝きを放つ。ウィザーモンが言っていたのはこのことだったのね」

 テイルモンはそう呟いた。優しさはやっぱり、賢ちゃんの紋章だったんだね。


「だって、賢ちゃん優しいもんね」

 賢ちゃんはよろよろとこちらに近づいてくる。飛鳥くんはそっと、ワームモンを手渡した。


「ワームモン……。お前、こんなに、軽かったのか……?」

「さよなら、賢……ちゃん……」

 ワームモンはデータとなり、賢ちゃんの腕から消えた。


「ワームモン……?」

「死んだんだ……」

 タケルくんは目を伏せ、声を震わせた。


「しんだ?」

 賢ちゃんが呆然と聞き返す。


「……死んだ!」

 意識を取り戻すと、よろよろと地面へ倒れ込んだ。


「こんなはずじゃ無かった……僕はこんな気持ちを思い出すために、ここに来たんじゃない……!」

 うずくまって泣く賢ちゃんに、大輔くんは声をかけた。


「……お前、家に帰れ」

 その言葉を聞き、賢ちゃんはふらつきながら立ち上がった。そのままよろよろと歩き始める。


「お前のことを心配して、待ってる人がいるんだ! 帰れよー!」

「……俺、送ってくよ」

 飛鳥くんは立ち上がり、大輔くんの肩を叩いた。


「飛鳥さん……」

「放っておけないんだ。賢が家に帰ったのを見届けて、俺も戻るよ」

 大輔くんは心配そうに飛鳥くんを見たが、彼の真剣な表情に小さく頷いた。


「……わかった。じゃあ気をつけて」

「ありがとう。チョコモン、行くよ」

「うん」

 私たちは走って賢ちゃんを追いかける飛鳥くんを見届けた。――頼んだよ、飛鳥くん。
 飛鳥くんたちの背中をしばらく見つめていたが、いつまでもこうしているわけにはいかない。私たちはゲートのところまで移動することにした。


「良かったのかしら……。飛鳥さんを一乗寺くんのところに行かして」

「良いに決まってるよ」

 ヒカリちゃんの呟きに、私はそう答えた。


「湊海お姉ちゃん……」

「賢ちゃんを送り届けることができるのは、飛鳥くんしかいない。放っておくなんて、できなかったんだよ」

「でも、あんなことしたやつ……」

「……今は、そっとしとこう」

 タケルくんも思うところがあるようで、口を噤んだ。――賢ちゃんは失ってしまった。たったひとりのパートナーを。賢ちゃんはパートナーがどれだけ大切な存在か、最後の最期で気づいたようだった。
タケルくんも、同じ思いを味わっている。カイザーは確かに簡単には許せないことをしてしまったが、今は――。今は、そっとしとくべきだと思う。

 私たちは重い空気の中、現実世界へ戻った。――もうこんな思いは、二度としたくない。


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