過ち

「やったあ!」

 キメラモンが倒され、みんなは歓声をあげる。力尽きたマグナモンはチビモンに退化し、砂の上に着地した。メイルドラモンも退化し、チョコモンになる。チョコモンはひょこひょこと、私たちの元へやってきた。


「お疲れ様、チョコモン」

「ええ……。でも……」

 チョコモンはワームモンに目をやる。ワームモンはもう――。私は目を伏せた。ワームモンはもう、ほとんど動かなかった。飛鳥くんはごしごしと目元を拭っている。


「キュアーリキュール! キュアーリキュール!」

 ラブラモンは懸命に治そうとするが、ワームモンには効かない。


「キュア……」

「もう、やめよう」

 私はラブラモンを抱き上げた。ラブラモンは目を潤ませて私を見た。


「湊海様……」

「……待とう。賢ちゃんを」

 私はラブラモンを降ろし、地面にしゃがみ込む。そっとワームモンを撫でると、ほのかに暖かった。


「大丈夫か!?」

 大輔くんはチビモンの元へ駆け寄った。

「チビモン……! 良かった……!」

 大輔くんはチビモンをぎゅっと抱きしめた。すると砂に埋もれている赤紫色の何かを拾い上げた。


「これって……紋章、だよな……?」

「紋章……?」

 大輔くんが拾い上げたのは紋章らしい。でも、紋章がなぜこんなところに……。まさか――! 私は賢ちゃんの方を見つめた。賢ちゃんは地面に両膝をついて、嘆いている。


「僕は、負けた……。なんでだよ……全て完璧だったはずなのに!」

 地面に拳を振り下ろしながら、賢ちゃんが嘆く。大輔くんたちは賢ちゃんの周りに立った。


「こんなの、こんなの最低だ。最低の、バッドエンディングだよ! こうなったら、初めからやり直しだ。何もかも、デジタルワールドをリセットしてやる!」

「……デジタルワールドを、リセットするだって?」

 タケルくんが眉をひそめて、賢ちゃんに聞き返した。


「だから、だから、一度家に戻って、パソコンのデータを全て消去して……そして、全て初めからやり直すんだ」

「お前、何言ってんだよ……?」

「本気で言ってるの? パソコンのデータを消したら、デジタルワールドをリセット出来るって」

 大輔くんと京ちゃんは困惑した様子で、賢ちゃんを見つめた。


「とんでもない思い違いだ! デジタルワールドをなんだと思ってるんだよ!」

「なに……?」

 タケルくんは拳を握り、賢ちゃんをぎっと睨む。賢ちゃんはゆっくりと体を起こした。


「これは、ゲームじゃありません。デジタルワールドをリセットするなんて、出来ないんです!」

「なんだって!?」

 伊織くんがそう言うと、賢ちゃんは大輔くんたちの方を振り向いた。


「あのとき、サッカー場にいたのは、お前たちデジモンだったのか……!」

「俺たち、パソコンの中のデータだけじゃないんだ」

「デジモンも俺たちと一緒さ。みんな同じに、生きてるんだ!」

「デジモンは、生き物……? それじゃあ、僕が今までやってきたことは……。僕は……なんてことを、してきたんだ!?」

 チビモンと大輔くんの説明に、賢ちゃんは頭を抱え、取り乱した。


「デジタルワールドは、夢や幻の世界じゃないんだ」

「私たちの世界と同じ、現実のもう一つの世界なのよ」

「うわ、うわああああああ!」

 賢ちゃんは手袋とマントを投げ捨てて、発狂する。サングラスも地面へ捨てた。それらは全てデータの塵となり、消えていく。


「うわあああ!」

 賢ちゃんが地面に倒れ込むと、服とカツラも全て消え去った。


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