すると前方にカイザーの姿が見えた。ムチでワームモンを叩きつけている。……ひどい。何てことをするんだ。
「これはゲームなんだ……そして最後に勝つのは僕だ!」
ムチを構えながらカイザーは息を荒らげていた。ワームモンは床に転がってしまっている。
「まだそんなこと言ってんのか!」
大輔くんの声に、カイザーがこちらを振り返った。
「僕が作ったキメラモンは、お前らなんかに絶対に負けないんだ……!」
「ゲームに勝つとか負けるとか、そんなことを聞いてる場合じゃないんだよ!」
カイザーは声を震わせながら虚勢を張る。大輔くんは眉をひそめながら、真剣に話した。
「大体デジモンを作るって何!? そんなことして良いと思ってんの!?」
「色んなデジモンのデータを寄せ集めて、僕のデジモンだって喜ぶなんて……馬鹿です。デジモンはおもちゃじゃないんだ!」
京ちゃんと伊織くんの言葉に、賢ちゃんは後ずさりをしてたじろいだ。
「このデジモンたちをよく見るんだ!」
タケルくんの言葉に、賢ちゃんはデジモンたちを見た。ラブラモンたちは、彼のことを睨んで警戒する。
「デジモンにはね、命があるんだ!生きてるんだ! 僕たちのかけがえのない、大切なパートナーなんだよ!?」
「な……」
賢ちゃんは驚いたように目を見開いた。――もしかしたら、デジモンはただのデータとしか思っていなかったのかもしれない。
「あなた……選ばれし子どもなのに、そんなことも分からないの!? そのデジモン、あなたのパートナーなんでしょ!?」
ヒカリちゃんが呆れた様子で賢ちゃんに怒鳴る。私はヒカリちゃんの肩をぽんと叩き、彼の前に出た。
「湊海お姉ちゃん……」
「……貴方にはきっと、まだ優しい心が残ってる。本当に悪い人なら、デジモンたちが生きていようと関係なく、ひどいことするよ。きっと。だから、まだ間に合う……絶対に間に合うよ、賢ちゃん」
デジモンたちが仮にただのデータだとして傷つけるのもどうかと思うが、彼は彼なりに苦しんでいたんだろう。その結果、カイザーになりデジタルワールドを支配することで何かを満たそうとしたんだと思う。――でも、賢ちゃんは生きているものを傷つけられない。人間を殴ることすら躊躇する。デジモンが生きものだということに、動揺する。……闇は今見えているものだけじゃない。闇には、救える闇と救えない闇がある。……私は、救える闇だと思うんだ。きっと、賢ちゃんは――。
私は賢ちゃんに手を伸ばしたが、ぱしんと弾かれてしまった。
「いったあ……」
「湊海ちゃん!」
大輔くんは慌てて私の手を取り、優しくさすってくれた。
「お前っ、何てことをするんだ!」
「黙れ! いい加減にしないと……!」
「いい加減にするのはどっちだ! もうやめてくれ!」
飛鳥くんは飛び出すと、賢ちゃんのことを思いっきり抱き締めた。私たちは突然のことに、呆気にとられる。
「あ、飛鳥さん!?」
「は、離せ! 気持ち悪い! 今更何を仲間ぶって……!」
「賢は初めて出会ったときからずっと仲間だったよ! 何でそんなこと言うの!?」
その言葉に、暴れていた賢ちゃんの動きが鈍る。
「ずっと、ずっと! 大切な仲間なのに! 賢はちっともわかってくれない……! 俺だけじゃないよ、ワームモンがどれだけ辛い思いしてるか、全然わかってない! ワームモンはかけがえのない、たったひとりのパートナーでしょ!」
飛鳥くんは賢ちゃんから離れ、両手を握った。
「……しっかりしろ! 本当の自分を取り戻せ!」
「賢ちゃん……」
ワームモンは起き上がり、賢ちゃんを呼ぶ。
「僕に相応しいデジモンは……」
飛鳥くんとワームモンは不安そうに賢ちゃんを見た。
「……キメラモンだあああ!」
賢ちゃんは思いっきり飛鳥くんを押し飛ばす。
「危ない!」
前に出ていた私と大輔くんで、何とか飛鳥くんを受け止めた。すると突然、地面が大きく揺れる。私たちは体勢が取れなくなり、地面に膝をつく。どうやら爆発も起こっているようで、マグナモンたちが戦っているところが赤く染まっていた。火災が起きているからか、カイザーの基地に警告音が鳴り響く。
「……この要塞もこれまでか。死にたいならここでゆっくりしていくんだな!」
そう言うとカイザーは階段を登っていった。ワームモンもこちらを気にしながら、後へ続いていった。