鎖で降りていると、ようやく地面が見えてくる。大輔は下へと飛び降りた。
「ああっ、だあ!」
しかし大輔は勢い余って下に落ちそうになり、何とか壁を掴む。
「大輔!」
慌てて俺も飛び降り、大輔の元へ向かう。
「あ、危なかった……」
「頼むよ大輔ぇ」
俺とロップモンは協力して大輔を引き上げた。何とか地面まで持ち上げると、大輔は大きく息をついた。何だかんだで、肝っ玉が冷えたようだ。
「ふう……。ありがとな、飛鳥さん。ロップモン」
「どういたしまして」
「もう、気をつけなさいよね」
俺たちは、正面を見た。色々な方向から動力室の扉まで、橋が繋がっている。
「あそこが、動力室だな……」
「うん……」
大輔くんは拳を構える。すると俺たちの前に現れたのは――。
「ワームモン!」
「飛鳥、ロップモン!」
ワームモンは笑顔で俺たちに駆け寄る。大輔は驚いたように、ワームモンを見つめた。
「来てくれたんだ……。ありがとう……」
「当たり前だよ。俺は賢の仲間、だからね」
俺は地面にしゃがみ、ワームモンを撫でる。ワームモンは安心したように頷いた。
「君たち、動力室を探してるんだよね。僕が案内してあげる」
「ちょ、ちょっと待てよ。お前、カイザー……一乗寺のデジモンなんだろ? なんでお前が教えてくれんだよ。もしかして、罠に嵌める気か?」
「違う!」
ワームモンは振り返り、大輔を睨んだ。
「僕はただ、賢ちゃんを救いたいんだ! キメラモンは恐ろしい。あいつを生み出したばっかりに、賢ちゃんは手の届かないとこに行ってしまいそうな気がするんだ! キメラモンを早く倒さないと、きっと、取り返しのつかないことになる。お願い、僕を信じて……!」
「……わかった」
大輔くんはそのワームモンの言葉を聞くと、拳を下げて優しい声で言った。
「ええっ?」
「お前のこと、信じるよ」
「……ありがとう! さあ、こっちだよ!」
俺たちはワームモンを追って駆け出した。
「大輔、ありがとう。ワームモンを信じてくれて」
「ううん。一乗寺が飛鳥さんの仲間なら俺たちの仲間でもあるだろ? そのデジモンの言葉を信じないって言うのは何か……裏切った気持ちになりそうで」
大輔はぽりぽりと頬をかいた。――この子はなんて、優しくて純粋なのだろう。胸が締め付けられそうになる。俺を仲間だと思ってくれる大輔のためにも、期待に応えなければならない。俺は頷いて、大輔の背中を叩いた。動力室は、もうすぐだ。
「なんだろう……。なんかすごいエネルギーが満ちているような……」
動力室に入ると、チビモンはそう呟いた。
「私も感じるわ……。何だか力が……」
「どういうことだ?」
「あの黒いのから出ている」
ロップモンの言葉に、大輔は首を傾げる。チビモンは部屋の中央にある、黒い石のようなものを指さした。俺たちはゆっくりと、そちらに近づいていく。
「賢ちゃんが見つけたんだ。これがこの要塞を動かしている」
「じゃあこれを外せば、この要塞は止まるんだな……。でもどうやって……」
すると石は何故か宙に浮き始めた。俺たちは呆然と、それを見つめる。
(来てくれた。奇跡の持ち主)
「……え?」
俺は思わず聞き返した。周りをキョロキョロと見渡したが、どうやら俺にしか聞こえてないようだ。ロップモンが心配そうに、俺を見上げる。
「ええっ!?」
大輔くんは石が浮かんだことに驚いており、俺の声に気づいていない。
動力源である石が離れたので、電気が止まり、部屋は一気に暗くなった。
「な、なんなんだこれ!?」
(君の力を貸してほしい。本当の持ち主のために)
「俺の力って……?」
まだ聞こえる謎の声に、俺は聞き返した。
(それはもちろん……)
その瞬間、俺の紋章と黒い石が共鳴するように激しく光を放つ。俺は思わず目を細めた。
「あ、飛鳥の紋章が……!」
「どうなってんだ!?」
ロップモンと大輔が驚きの声をあげる。ウィザーモンの残してくれた言葉――『優しさは黄金の輝きを放つ』。
優しさだけではなく、黄金の輝きと、奇跡が必要だって言ってた……。まさか奇跡は――。
「紋章のこと、なのか……?」
「大輔、見て!」
チビモンが指をさした方には、紋章のようなマークが浮かんでいた。あれは、もしかして――優しさの……?
すると光を浴びたチビモンは、突然ブイモンに進化をした。
「あ、ああっ……!」
「進化した……。何でだ?」
(持ち主を助けるには……奇跡が……)
「もしかして、君は賢の……?」
俺が尋ねると、光は少し弱々しくなる。
(助けて……たす……け……て……)
「……わかったよ。君の気持ち、しっかり受け止めた」
俺は正面の石を……デジメンタルを、真っ直ぐ見据えた。もう黒く――闇になんて、染まらせない。絶対に。
「大輔と……仲間と一緒に、お前を助けるんだ……! 賢!」
俺は紋章をぎゅっと握った。その瞬間紋章が強い光を放ち、石の方へ向かう。
気づけば動力室の部分は壊れ、そこにはデジメンタルしか浮いていない。それは黄金に輝いており、表面には奇跡の紋章が刻まれていた。
「これは……黄金のデジメンタル……?」
すると、大輔くんはぴくりと体を動かした。
(本当の持ち主のところに……帰りたい……。力を貸して……奇跡を……)
「何か今、声が聞こえた……!」
黄金のデジメンタルは、大輔の手の上に着地する。
「俺の、デジメンタルなのか……? でもこれって……奇跡、の紋章じゃ……」
大輔はデジメンタルを受け取ったものの、オロオロとしていた。不安そうにこちらを見る大輔に、俺は頬を緩める。
「飛鳥さん……」
「……奇跡は、俺だけで起こせるものじゃないよ」
俺は大輔の上に、そっと手を重ねた。
「大輔が……みんながいるから、奇跡は起こせるんだ。俺は頑張ることができたんだ! だからそれは大輔のものだよ。俺はもう後悔したくない。カイザーを……賢を、助けて!」
俺の言葉に大輔は少し驚いた様子だったが、いつものように彼はにっと笑い、デジメンタルを突き出した。
「……もちろんだぜ!」
大輔。ありがとう。俺を最初からずっと信じてくれて。そんな君とだったから、俺は……俺たちは、奇跡を起こすことができたんだ。だから、戦おう。賢を取り戻すために。大輔と一緒なら、俺は……!
「ブイモン、行くぞ!」
「うん!」
大輔はデジメンタルを構えた。ブイモンも元気よく頷き、体勢を整える。俺とロップモンは緊張しながら、大輔たちを見守った。お願いだ――力を貸してくれ。俺は紋章をぎゅっと握った。もう絶対に、失いたくない。
「デジメンタルアーップ!」
「ブイモン、アーマー進化! 奇跡の輝き、マグナモン!」
――それは、黄金に輝いていた。表面上の輝きだけではない。マグナモンが、優しさが、奇跡が、俺たちの思いが……全部ぜんぶ、輝いていた。
俺たちは呆然と、上を見上げた。きっと、マグナモンなら全てを取り戻せる……。
俺は拳を握った。――賢。待ってて。