「……脱出しよう」
ぐったりとしたパタモンを抱いたタケルくんは、ぽつりと呟いた。私たちは顔をあげ、タケルくんの方を見る。
「脱出!?」
大輔くんは信じられなかったようで、タケルくんに聞き返した。
「これじゃあもう戦うことすら出来ない。作戦は失敗したんだ……。一旦引き上げて、またチャンスを待とう!」
「……うん。ここで引き上げるのは悔しいけど……仕方ないよ」
私はタケルくんの意見に頷き、ラブラモンの頭を撫でた。協力してくれた光子郎さんやアグモンたちには悪いが、ここは撤退するしかない。
「そうね、そうするしかないわ……」
「わかりました……」
ヒカリちゃんと伊織くんも複雑な表情で頷いた。しかし――。
「嫌だ……!」
「大輔……?」
京ちゃんが思わず名前を呼ぶ。私たちは大輔くんの方を見た。
「またなんて悠長なこと言ってらんねえよ! 今俺たちが引き上げたら、またこいつら攻撃しまくるに決まってるだろう!?」
大輔くんはキメラモンの方を見ながら、こう続けた。
「もう一回この要塞に入れるかどうかもわからない……。だから、今しかないんだ!」
「そんな無茶よ……!」
「そうです!」
「みんな、幼年期に戻っちゃったんだよ!?」
大輔くんは力説したが、ヒカリちゃんたちが猛反対をする。ラブラモンたちはともかく、チビモンたちは幼年期まで退化してしまった。正直この状態で先に進むのは――無理がある。大輔くんの言っていることは最もだが、今の私たちでは……。
「だいすけぇ……」
チビモンが不安そうに大輔くんを見上げる。
「だけど、みんな見ただろ……? 街が破壊されていくのを。俺たちは、黙って見てるしかなかった……。もう、あんな光景は二度と見たくない! もうこれ以上、こいつらの好きになんかさせてたまるか! だから、俺だけでも行く。ここで諦めるわけにはいかないんだ。ここまで来たら、前に進むしかないんだ!」
私は真っ直ぐ前を見据える大輔くんを、じっと見つめた。
大輔くんは持っている。どんな状態でも、一歩進む大切さを。――あのときの冒険で、ダメだったからやり直す、なんて選択肢はあっただろうか。私たちは後ろ盾がない状態で、ずっと頑張ってきた。なのに……私はラブラモンを力強く抱き締めた。今の私は、意気地無しだ。
「行こう、大輔」
チビモンは大輔くんの話を聞くと、頭の上に乗った。
「チビモン……」
「大輔が行くなら、俺も行く!」
「よし。じゃあ俺も行こう」
その発言に、私たちは一斉に彼の方を見た。
「飛鳥さん!?」
「大輔だけに行かせちゃ、俺がここにいる意味がないさ」
飛鳥くんはにこりと笑うと、ロップモンを抱き上げた。
「湊海。俺じゃ頼りないかもしれないけど、大輔を任せてくれないか?」
「頼りなくなんか、ないよ。……任せた。飛鳥くん」
飛鳥くんは私の言葉に、大きく頷いた。――ごめんね。頼りないのは私の方だよ。
「よおし、行こう飛鳥さん!」
「ああ!」
大輔くんと飛鳥くんはそう言うやいなや駆け出した。
「チビモン、しっかり掴まってろよ!」
「うん!」
キメラモンの横を通っていき、下へと続いている鎖に手をかける。大輔くんたちは下へ降りて行った。