「湊海お姉ちゃん?」
「……な、なあに?」
タケルくんはいつものように明るく、私の名前を呼んだ。それが尚のこと恐ろしく感じたが、私は大人しく返事をした。
「僕とあいつ、どっちが大事なの?」
あいつ、というのは賢ちゃんのことだろうか。どうやらタケルくんは、私が賢ちゃんにしたことがよっぽど気に食わないらしい。まあ無理もない。――でも、私の答えは聞くまでもないだろう。
「……そりゃ、タケルくんだよ」
私はそう答えた。タケルくんは仲間だし、友達だ。何度も、タケルくんの希望には救われてきた。彼の希望に憧れていた。大切に決まっているのだ。タケルくんは。――賢ちゃんは嫌いかと聞かれると、そうだとは言えない。でも、今の賢ちゃんを私は好きということができないし、言ってはダメだ。
「どうだか……僕の1番が湊海お姉ちゃんでも、貴女がそうとは限らないからね」
「 へ?」
「なーんでも。いいよ別に。それより早く、キメラモンのところへ行こう」
タケルくんは私の答えが気に入らなかったらしく、話を逸らした。――もう、タケルくんの方こそ。私の気持ち、わかってない。
「……ちゃんと大好きなのに。何でわかってくれないの」
私はタケルくんの背中を、ぎゅっと力を込めて抱きしめた。タケルくんはどうもわかってない。ちゃんと大好きって気持ちをいつも伝えているのに。だからあんなことを聞くんだろう。私の中では、ずっと決まっていることなのに。タケルくんが大好きだってこと。大切だってこと。3年前からずっと、大事に思ってる。
「……ごめん。僕も好きだよ。湊海お姉ちゃん」
タケルくんはそっと、私の手に両手を重ねた。
「……うん!」
「でも、僕の好きと湊海お姉ちゃんの好きはきっと違うよ」
「何が?」
「今はまだ……内緒!」
タケルくんは私を振り返ると、いたずらげに笑った。――もう、やっぱりタケルくんは少し意地悪だ。
私たちは、キメラモンの元へ向かった。遠くではわからなかったが、キメラモンはネフェルティモンとホルスモンを気持ち悪い腕で掴んでいた。
「シルバーブレイン!」
ペガスモンが両手に向かって必殺技を放ち、救出する。
「ありがとうタケル、ペガスモン!」
「キメラモンの動きが止まっている。今のうちにひとまず撤退だ!」
そのタケルくんの号令に、私たちはみんなが待っているという小島に向かう。
その小島に着く頃には、辺りはすっかり夕暮れになっていた。
「タケルくん、こっちおいで」
「なに?」
私はリュックから予備のタオルを取り出し、水に濡らした。
「カイザーボコボコにするのはともかく、タケルくんが傷ついちゃダメでしょ。無理しないの」
私は先ほどのように、タケルくんの頬にタオルを置いた。
「気持ちいい?」
「うん……」
「絆創膏貼ると目立っちゃうから、ちゃんと冷やして腫れをひかせた方がいいね」
「……ありがとう。湊海お姉ちゃん」
タケルくんは照れくさそうにお礼を言った。……おお、すごく可愛い。いつもこうならいいんだけどな。
「あの……」
「ん? どうしたの伊織くん」
タケルくんの手当てをしていると、伊織くんがやってきた。
「タケルさん、これ……」
伊織くんはおずおずとタケルくんの帽子を差し出した。どうやら伊織くんが、タケルくんの荷物を回収してくれていたらしい。
「ありがとう」
タケルくんはにこりと笑い、帽子を受け取った。良かったね。
「そんなことに……! ちくしょう!」
その間にヒカリちゃんたちが先ほどまでの出来事を話していたようで、大輔くんの悔しそうな声が聞こえてきた。
「俺、空を飛べたら……」
「言うな! 俺たちには、俺たちなりの戦い方があるさ!」
「うん!」
ブイモンと大輔くんは頷き合った。ラブラモンもこれくらい前向きになれば、土下座しなくて済むんじゃないかしら。
「とにかく、一休みしたらカイザーを追っていくぞ!」
『おー!』
私たちは拳を上に突き出した。一度は侵入したカイザーの基地だ。あともう少しのところまで来ている。頑張らないと――!