怒り

 ぺガスモンは無事洞窟に入り、基地の潜入に成功した。奥に進んでいくと、何やら工事をするような音が聞こえてきた。これは――。私たちは顔を見合わせ、その音の元へ向かった。


「伊織くん!」

「大丈夫ー?」

 やはり、あれはディグモンの出していた音だったようだ。ディグモンはドリルを使い、檻を壊していた。


「あ、タケルさん、湊海さん! 捕まっているデジモンを逃がそうと!」

「よっしゃ! わてにも手伝わせておくんなはれ!」

 どうやら伊織くんたちは、捕虜となっていたデジモンたちを救出していたらしい。
それを見たテントモンは、張り切って手伝いを始めた。


「プチサンダー!」

 ふとタケルくんが目線を逸らしたので、私もそちらを見る。牢屋の天井部分には、先程の渦が映っていた。


「カイザーの奴、何してるんだ……?」

「何でこんなところに映してるんだろう?」

 映像では、一体のメカノリモンが渦に入っていく。何をするのかと見つめていると、突然それは現れた。


「デビモン……!」

「な……!」

 私は思わず絶句した。デビモンがどうしてこんなところに――!?
メカノリモンは機械を構えると、デビモンを吸収し始めた。デビモンもデビモンだが、カイザーは一体何をしているのだろうか。……まさか、デビモンの闇の力を使おうとでも、しているのだろうか。

 ――私は、3年前の冒険を思い出していた。エンジェモンが私たちのために力を使い果たしてしまったこと。そのときタケルくんが、どんなに辛い思いをしたかということ。
目の前でタケルくんを見ていた私は、何もすることができなかった。……できなかったのだ。エンジェモンはデジタマになったが、完全に力を取り戻すまでには多くの時間を要した。その間タケルくんは、一体どんな思いで私たちを見ていたのだろう。パタモンと一緒にいたのだろう。
もしかしたら、エンジェモンに再び進化するのは、怖かったかもしれない。でもタケルくんは、希望を持ち続けた。だからこそ、ここまで一緒に来られたのだ。なのに――。

 私はタケルくんの方を見た。闇の力を悪用する同じ選ばれし子どもを見て、彼がどう思うのか……。それは何となく、想像がついた。


「何も知っちゃいないくせに……」

 タケルくんは静かに帽子をとった。――かつてなく、目に怒りを灯しながら。


「タケルくん……」

「わからないくせに……! ふざけんな!」
 
 タケルくんは大声で怒鳴ると、帽子を地面に投げつけた。そのままリュックも地面に捨てる。


「タケル、さん……?」

 驚いた伊織くんが、声をかけるが、タケルくんは返事をしない。


「もうやめだ。これ以上付き合ってらんねえ! ケリつけてやる!」

「ちょ、ちょっと!」

 タケルくんはこちらに目もくれず、ずんずんと歩いて行ってしまった。


「どこへ行くんです!?」

「タケル待ってよ!」

「ごめん、私たちタケルくんのところ行くから! 伊織くんはテントモンと一緒に、デジモンたちを逃がしてあげて!」

「は、はい……!」

 伊織くんにそうお願いをし、私は後ろを振り返った。


「ラブラモン、パタモン、追いかけるよ!」

「はい!」

「うん!」

 私たちは、どんどんと先へ進むタケルくんを追った。私に止められるかはわからないが、何もしないわけにはいかない。



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