探索を始めてしばらく経った頃。
「大輔きっと怒るだぎゃあ」
「かもね」
伊織くんが苦笑いで、サブマリモンに答えた。今のところ、カイザーの基地は見つかっていない。どこまで行ったのやら。
「何で大輔はんは、偵察に誘えへんかったんでっか?」
「だって……ヒカリちゃんたちだけ残して行くわけには、いかないじゃない?」
「そうだね。何が起こるかわからないし」
テントモンの問いに、タケルくんはそう答えた。私も頷いて同調する。あと大輔くんたちも、ラブラモン同様飛べない。可哀想だが。
「まあ、飛鳥さんも一緒だから大丈夫じゃないかな。良いストッパーになってくれそう」
「飛鳥くん、オトナだからねえ……」
あのふたり仲良いし、飛鳥くんがいるなら大輔くんも安心だろう。
私たちはヒカリちゃんや光子郎さんたちにメールをした後、本格的に別れて、カイザーの基地を探すことになった。
「影も形も見えない……」
「一体どこに行ったんでしょう」
ぺガスモンとラブラモンはそう呟いた。
「伊織くんは、何が見つけたかな?」
「どうだろうね……」
「とりあえず、こっちは何も見つからないって連絡しなきゃ」
タケルくんはDターミナルでメールを送信する。その少し後、着信音が鳴った。
「基地を発見! 洞窟から中に潜入してみます……って」
「ええ!」
私は思わず声をあげた。伊織くんの方、基地が見つかったんだ――!
ということは、カイザーの基地は海中に?
「大丈夫でっしゃろか?」
「無理しないようには言っとく」
タケルくんはポチポチと文字を打った。潜入するのはサブマリモンと伊織くんだけだから、テントモンと同じく心配だ。見つからないといいんだけど……。
「タケル、湊海、あれ!」
「え?」
ぺガスモンの視線の先を見ると、海の真ん中に大きな渦があった。
「渦巻き……?」
タケルくんが呟く。とりあえず発見したことをヒカリちゃんたちに伝えると、早く伊織くんに伝えてとの返信がきた。
「そりゃあ、わかってるよ? でも、さっきから連絡とれないんだ……」
タケルくんは困ったようにそう言った。
「おかしいな、何で急に送れなくなっちゃったんだろう……」
「せやかて、急がなあっきまへんでぇ!?」
「そう、大変なことになるよ!」
「うん……ところで君たち、さっきからえらく興奮してない?」
慌てた様子のテントモンとぺガスモンに、タケルくんが不思議そうに問いかけた。
「そらあ、興奮もしまっしゃろ! あの渦見たら!」
「とても気分が悪いです……」
「タケルは、何も感じないの?」
そのぺガスモンの問いに、私たちはじっと渦を見た。渦の底は暗く、何も見えない。もっと見てみようと顔を下に向けると、引き込まれそうなり、私は思わず身を反りのけた。
「……か、感じた! あれは何!?」
「何か、気持ち悪い……!」
あれは絶対、ただの渦ではない。心が急激に冷えて、寒気がする。説明しようがない気持ち悪さに、私はタケルくんの背中に抱きついた。
「あ! 動き出しましたで!」
そのうちに、海中の基地がゆっくりと動き始める。
「渦の方に向かってる!」
「伊織……」
タケルくんは小さく呟いた。タケルくんはピンチになると、たまに人を呼び捨てにする。伊織くん、大丈夫かな――?
するとカイザーの基地が、海中から空に浮かび上がった。
「ひゃああ! こらでかいわ!」
「どこかに伊織くんたちが入った洞窟がある。そこから、僕たちも中に潜入する!」
「わかった!」
タケルくんにそう返事をし、ペガスモンは基地に近づいていった。
「何これ……浮遊霊? 気持ち悪いな……」
渦に近づくにつれ、私たちの周りをグレーの何かが動き回る。どことなく不気味で、気持ちの良いものとは言えない。
「タケルくん、怖いなら手握ろうか?」
「……湊海お姉ちゃんの方が怖いんでしょ?」
タケルくんは目を細めて、私の方を見た。
「ち、違うますぅ。私はタケルくんのことを思ってだね……」
「はいはい」
タケルくんは適当にあしらうと、私の手を上からそっと重ねた。最近タケルくんに流されがちなのは、湊海お姉ちゃん悲しいぞ。
「それより、気持ち悪いのは下に口を開けている真っ暗なところだよ」
ペガスモンがそう言ったので、下を見てみたが――。
先ほどの何も見えなかったところだろうか。心がざわつくのに、どうしても目を離せない。まるでこっちに来いとでも言ってるように、私を惹き付けてくる。……でも、嫌だ。気持ち悪い……。一体どうすれば――。
「見ちゃダメだ!」
「湊海様!?」
その言葉で意識がはっとする。私はようやく、暗闇から目を離した。
「気いつけな、呑みこまれまっせ」
「う、うん……」
「湊海様も、不用意に覗いてはいけませんよ」
「ご、ごめん。ちょっと危なかったよ……」
私は頬をぽりぽりとかいた。私が呑まれては、本末転倒だ。余計なことを考えない。危ないところは見ない。気をつけないと。