そして翌日。あくびをこらえつつ集合した私たちだったが、京ちゃんのテンションがやけに高かった。部屋の中をずっと素振りやら蹴りやらして、走り回っている。
「デジタルワールド、ゴーゴー! デジモンカイザーやっつけろー!」
「どうしちゃったの?」
「それが、起きてからずっとあの調子で」
パタモンに聞かれ、ボロモンはげっそりとした様子でそう答えた。
「いつも以上に面白いね、京ちゃん」
「面白いで済ませちゃうのかぁ!?」
京ちゃんを見守っていると、大輔くんが驚いた様子で私を見た。
「パソコンのセッティング、終わりました!」
「ビンゴ! ゴーゴーレッツゴー!」
そうこうしてるうちに準備が完了したようで、私たちは光子郎さんに促され、パソコンの前に並んだ。京ちゃん? 何だか語呂のいい言葉で張り切っている。
「それじゃあ、行って来るね」
「ああ、こっちは任せておけ」
「気をつけろよ」
「うん!」
「頑張ってきます!」
太一さんの励ましに、ヒカリちゃんと私は笑顔で頷いた。
「じゃあ行ってみよう! デジタルゲート、オープン! 選ばれし子どもたち、出動!」
こうして私たちは、デジタルワールドへ向かった。しばらくは、こちらの世界に戻れない。
「この上です。皆さん気をつけて下さい」
伊織くんの案内で、私たちは崖を登っていた。伊織くんは私たちに注意を促す。
「京さん! 京さんってば!」
しかしその忠告を聞かず、京ちゃんはとんでもない勢いで崖を登っていく。その後ろをホークモンが追いかけていった。
「京ちゃーん、危ないって!」
京ちゃんは私の言葉も聞かず、猛スピードで頂上へ行ってしまった。京ちゃんもしかして、運動神経いい?
「皆はん、大変でんがなー! カイザーの基地が無くなってまっせー!」
崖の上で待っていたテントモンが慌てた様子でそう叫ぶ。
「ええ!?」
「なんだって!?」
急いで崖を登り、 私たちはカイザーの基地があったとという場所を見た。ダークタワーが並々と立っている中央の辺りに、大きな穴が空いている。
「あのでっきゃー穴ぼこのとこに、変てこりんな建物があったんだがや」
「……あれ? 京は?」
「あっ、あそこ!」
ヒカリちゃんが指をさした先には、すごい勢いで崖を滑り降りている京ちゃんがいた。
「いやっほーい!」
「待って、待ってくださいよ!」
「ありゃあ……」
私たちは顔を見合わせた。やっぱり今日の京ちゃんはなーんかおかしい。いや、面白いは面白いのだけど。こんなペースだと疲れちゃうぞ。
「これは、私がしっかりサポートしないと! 」
「あ、待ってよ。湊海ちゃん!」
京ちゃんに続いて、私も崖を下っていった。みんなも慌てて後ろに続く。
地面に降り立つと、私たちは大きな穴を覗き込んだ。
「本当にここだったのかよ?」
「間違いありません! でも、なんでこんな大きな穴が……」
「基地が丸ごと消えたって、言うのか」
「消えちゃうなんて、そんなこと……」
「でも、逆に穴があるということは、前は基地があったってことじゃない?」
「そうだよなあ……」
私たちはそれぞれ意見を述べた。カイザーの基地は一体どこにあるというのだろう。
「飛鳥さん、カイザーの基地って行ったことある?」
「うーん……何回かは。でも、場所はわからないんだ。あの基地の中にゲートがあったから……」
大輔くんの質問に、飛鳥くんはそう答えた。直接ゲートを基地の中にこしらえるとは、カイザーもやりおる。
「どうするの?」
「どうするって……今更、引き返すわけにも、いかないよ」
「探そうぜ! 俺が必ずカイザーの基地を見つけ出して、叩き潰す!」
パタモンの問いかけに、タケルくんは困ったように呟く。大輔くんが拳を握り気合を入れた、そのときだった。
「空よ!」
「え?」
後ろを振り向くと、京ちゃんはダークタワーにとんでもない速さで登っていた。どうやってるんだあれ。
「み、京さぁん……!」
ホークモンは悲しげな声をあげながら、京ちゃんの元へ飛んでいく。
「み、京ちゃーん!」
京ちゃんはダークタワーのてっぺんまで登ったかと思うと、するすると地面に降りて突然テントモンを問い詰めた。
「え、ええええ!?」
「ネタはあがってんのよ! 正直に白状なさい! カイザーの基地はどこ!?」
「何考えてんですか! 京さん!」
「犯人は……お前か!」
すると京ちゃんは急に方向転換をして、飛鳥くんを指差した。
「そのさわやかフェイスの裏にとんでもないものを隠しているのはわかってるのよ! 白状しなさい!」
「お、俺にどうしろと!?」
「すみません、すみませんホント! あれでも京さんは京さんなりに頑張ってるんです……!」
飛鳥くんは思わずツッコミを入れる。ホークモンは必死に頭を何回も下げて、テントモンたちに謝った。
「俺は別に大丈夫だよ」
「わても構いまへんけど、また何か始めてまっせ?」
「え?」
そのテントモンの言葉に京ちゃんの方を見ると、金槌を打って杭を地面に固定し、ロープを結びつけていた。そして立ち上がったかと思うと、私たちに向かって敬礼をする。
「井ノ上京、これよりデジモンカイザー地下帝国の探索に向かいます。吉報を待て!」
「み、京さん!」
そう言って穴へ降りていった京ちゃんを、ホークモンが慌てて追いかけた。
『はあ……』
みんなの溜息が辺りに響く。私は苦笑いを零しながら、大輔くんの肩の上に手を乗せた。
「京ちゃんは頑張ってる。ただちょっと、方向性が違うだけだよ」
「そうは言ってもなあ……」
大輔くんは岩に座り込み、穴の方を見つめていた。さすがの大輔くんも、あの京ちゃんの勢いには敵わないらしい。