カイザーの基地を追え!

 私たちは、ウィザーモンの残してれた言葉を頼りに、デジタルワールドへ偵察に行った。パソコン室にわざわざいかなくてもよいと判明したため、今日は光子郎さんの部屋から順番に行くことにしている。
 待っていると、最後の順番だった光子郎さんと伊織くんが帰ってきた。


「お疲れ!」

「お母さんは?」

「大丈夫。まだ帰ってきてないみたいだ」

「間に合った……」

 太一さんの言葉に、光子郎さんは息をついた。


「で、どうだった? そっちは」

「ダークタワーがいっぱい並んで建っていました」

「やっぱり!」

「俺たちのとこにも建ってたんだよ!」

 私たちが行った場所にも、大量のダークタワーが並んでいた。デジタルワールド引きこもりのカイザーと現実世界に戻らなければならない私たちとでは、やはり出来る量が変わる。


「あんなに建てるなんて、やっぱりこもってて暇なんじゃない? カイザー」

「まあずっとデジタルワールドにいたらなあ」

「そう。まるで、電信柱みたいにたくさん……」

 私の言葉に大輔くんとタケルくんは頷いた。いつになったら戻る気なのだろう。


「それだけじゃありません。見つけたんです、カイザーの基地を!」

「基地!?」

「はい」

 驚いた様子のヒカリちゃんに、伊織くんは頷いた。


『ほな、わては続けて偵察して来ますわ!』

「お願いします」

 テントモンとの通信を終えて、光子郎さんはパソコンを私たちの方へ向けた。


「皆さん、ちょっと見てください」

 そこには、デジタルワールドの地図が映し出されていた。


「ん?」

「まず、これが大輔くんたちの行った地域。これがタケル君くんたちの行った地域。そしてこれが僕たちの行った地域。繋げてみると……」

「これは……!」

「まるで、大きななめくじが通ったあとみたい!」

 タケルくんと京ちゃんが声をあげる。パソコンに映し出される黒いエリアは、全部繋がっていた。


「エリアが規則的に侵略されてまちゅ!」

「僕たちのデジタルワールドが……!」

「許せない!」

「いよいよ本格的に征服しようとしとるんだぎゃ!」

 デジモンたちは真剣な表情でパソコンの画面を見つめた。


「あいつ、なんてことを……!」

「何とかしなければ……」

 ロップモンとラブラモンも小さく呟いた。



「時が、迫っている……」

「急いで、君たち……。ウィザーモンが言っていたのは、このことだったのかしら?」

 テイルモンとヒカリちゃんは眉を潜めた。カイザーの侵略がすぐそこまで迫っている、ということなのだろうか。


「そうだよ、きっと……」

「だとしたら、グズグズしてる暇はないんじゃないのか? カイザーの基地を見つけたんなら、今すぐぶっ潰しに行こうぜ! なあ、チビモン!」

「おう!」

「ちょっと待った。カイザーの基地を叩くとしたら、それなりの計画を立てておかないと……」

 チビモンと意気込む大輔くんを、タケルくんが制した。


「……ごめん、わかってる。俺、気持ちの問題を言ったんだ」

 すると大輔くんは素直にタケルくんに謝った。珍しいこともあるものだ。それとも、大輔くんも感じているのかな。カイザーに対しての危機感を。


「きっと、今までのようにはいかないわよね」

「そうだね。これまでみたいに日帰り、ってわけにはいかないかも」

「え……?」

 タケルくんの言葉に京ちゃんは一瞬言葉を失ったようだったが、気を取り直して話を続けた。


「……そ、そうよね。帰りの時間なんか気にしてたら、基地なんか叩けないわよね」

「うん。カイザーを倒すまでは帰らない、それくらいの覚悟が必要だわ!」

 ヒカリちゃんは立ち上がって力説した。確かに決着をつけるのならば、そうしないとならない。いちいち現実世界に帰っていては、カイザーとの差がつくだけだ。


「覚悟ならできていますが、夕飯までには帰らないと、お母さんが心配します」

「そんなもん適当にウソつきゃいいんだよ! 友達の家に泊まるとかなんとかさ!」

「大輔くん、そんなことしてるの?」

「うっ……! た、例えばの話だって……!」

 大輔くんは墓穴を掘ったようで、ヒカリちゃんに詰め寄られていた。さすがわんぱく小僧の大輔くんである。


「普段嘘つきまくってる大輔くんはともかく、伊織くんや京ちゃんたちは問題だよねえ」

「湊海ちゃん酷いよおおおお!」

 大輔くんは私の肩をガクガクと揺らした。おーおー、揺れる揺れる。


「あはは、冗談だって」

 私は宥めるように大輔くんの頭を撫でた。やっぱり可愛い。


「うーん、確かに俺も泊まりとなると親にどう説明すればいいのか……」

「そうですよね」

 飛鳥くんの意見に、ヒカリちゃんは同意した。いい? 大輔くん。普通のいい子なら、こうなるんだよ。


「なあ、キャンプだ! 俺たちみんなで、キャンプに行こうぜ!」

 すると太一さんが椅子ごと移動しながら、私たちに声をかけた。


「キャンプ?」

「キャンプに行ったことにして、デジタルワールドに行くってこと?」

 ヒカリちゃんが首を傾げる横で、タケルくんが嬉しそうに言った。


「その通り! でも、キャンプ場に親から電話とかあったら困るだろ? だから、俺やヤマトたちは本当にキャンプに行ってくるよ!」

「俺たちでアリバイ作りするのか!」

「どうだ? 名案だろ!」

 太一さんはヤマトさんに笑いかけた。これなら泊まりがけで行っても、大輔くんたちの親御さんたちを納得させることができるだろう。流石太一さんだ。

 するとそのとき、ドアをコンコンとノックする音が聞こえた。


「あ……!」

 私たちはワタワタと慌てて、各々行動に移った。目の前がダンスやら腕相撲やら変なことになっている中で、光子郎さんと半々でデジモンたちを抱える。もちろん、ぬいぐるみのフリをしている状態だ。
ちなみにそんな中、飛鳥くんはにこやかにベッドに座っていた。うーん、流石だ。


「ど、どうぞ!」

「皆さん、いらっしゃい」

 光子郎さんが促すと、光子郎さんのお母さんはニコニコとした様子でドアを開けた。


「お帰りなさい……!」

『お邪魔してまーす!』

「皆さん、集まって何の相談?」

「あ、あのぉ……! 実はみんなでキャンプに行こうかなぁと!」

 私たちが慌てている中、光子郎さんが取り繕ってそう説明する。


「まあ、それは良いわね。でも、どなたか保護者の方はいらっしゃるの?」

「あ……」

「うちの父が保護者なんですよー!」

 言葉に詰まった光子郎さんの代わりにヤマトさんが答えた。


「大丈夫なのか……?」

「……多分」

 小声でそう話すヤマトさんたちに一抹の不安は残るが、とりあえず明日からキャンプという名の打倒カイザー作戦を始めることになった。




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