翌日の8月2日のこと。光子郎さんと大輔くん、伊織くんと私は太一さんの家に来ていた。
「あの、せっかくこうして集まっているので、ちょっと伝えたいことがあるんです」
「え? 一体何ですか?」
光子郎さんの発言に、大輔くんは首を傾げる。
「実は、デジタルゲートのことなんです」
「ゲート? いつもデジタルワールドに行くときの?」
「はい」
ヒカリちゃんが尋ねると、光子郎さんは頷いた。そのまま姿勢を正して、話を続ける。
「いつもはパソコンルームのパソコンからデジタルワールドに行き来していましたが、もしかしたらそれ以外のところでもゲートは開くのではないかと思って」
「えっ、どうやってですか? そんなこと、できるんですか?」
「ええ。少し前に湊海さんと飛鳥くんに協力してもらって、実験をしたんです」
「どういうことだよ、光子郎?」
太一さんは椅子に座ったまま、光子郎さんにぐいっと近づく。
「つまりですね、いつもあのパソコンに、ゲートを開く力があるわけではないと思うんです。ゲートが開くのは、みなさんが持っているD-3の力が働いているはずなんです」
「これ?」
ヒカリちゃんはD-3を掲げて確認した。
「はい。以前から気がついてはいたんですが、確信がなかったので口に出さないでいたんです。湊海さんたちに何度か試してもらって、ようやく立証できましたが」
私と飛鳥くんは、あれから何度かゲートを開き、その都度光子郎さんに報告をしていた。光子郎さんはその結果を集め、ついに確信を得ることができたらしい。そして今日、お披露目となったわけだ。
「今回のようにパソコンルームが使えない日があったりしたときに、もしデジモンカイザーに何か動きがあったりすると、まずいと思うんです」
「なるほど……。だとすると、一体どこからデジタルワールドに行くんだ?」
「ここです」
「ここ!?」
大輔くんが驚きの声をあげる。光子郎さんは立ち上がり、机の上にあるパソコンを指さした。
「パソコンがありさえすれば……いえ、もしかしたらパソコンがなくたって、D-3があれば、デジタルワールドに行けるはずです!」
その光子郎さんの言葉に、私も目を見開く。パソコンがないときの想定もしているとは――さすが光子郎さんだ。
うーん……でも、D-3自体が小さなパソコンのようなものなのだろうか。その辺りのところはよくわからない。後で聞いてみよう。
「大輔くん、やってみてください」
「お、俺!?」
光子郎さんの指名に、大輔くんは慌てふためく。
「湊海さんと飛鳥くんにはやってもらいましたし、他のD-3でも試したいんです」
「そうだね。大輔くん、やってみて」
「わ、わかった」
ヒカリちゃんに促され、大輔くんはパソコンの前に立つ。光子郎さんがゲートの画面を開くと、彼はD-3を掲げ、いつもの台詞を言い放った。
「デジタルゲート、オープン!」
私たちはじっと画面を見つめる。大輔くんのD-3に反応し、ゲートいつものように開いた。
「デジタルゲートが、開きましたね!」
「……行こうぜ!」
「えっ?」
みんなが感動しているのもつかの間、大輔くんの発言に伊織くんは思わず聞き返した。
「せっかく開いたんだ、行こうぜ!」
私たちは顔を見合わせたが、大輔くんの言葉も一理ある。カイザーさんの暴れ具合も確認したいし、良い機会だろう。私たちは各々のデジヴァイスを構えた。――そのときだった。
「ただいまぁ」
ドアの開閉音と共に、伯母さんの声が聞こえる。
「大輔、待て! おふくろが帰ってきた」
「で、でも……」
「玄関にみんなの靴があるのに、誰もいなかったら変だよ!」
「そうですね……」
まごまごしているうちに、ゲートは閉まってしまった。
「閉まっちゃった……」
「やっぱり、ここでも開くんですね……」
「それがもう少し早くわかってれば、昨日8月1日に、みんなでデジタルワールドに行けたかもしれないなあ!」
「すみません……。何度か実験を重ねたかったので、太一さんたちに報告するのが遅くなってしまいました……」
「いいんだよ。光子郎のせいじゃない。また来年もある!」
「うん!」
光子郎さんの落ち込んだ様子に、太一さんとヒカリちゃんはフォローをした。今年は行けなかったけれど、来年はデジタルワールドでピクニックをしながら、思い出話をするというのも良いかもしれない。とっても楽しそうだ。
「しかし、自宅からデジタルワールドへ行くというのも、便利そうで意外に不便なのかもしれませんね」
「どうして?」
伊織くんの呟きに、ヒカリちゃんは不思議そうに疑問をぶつける。そのとき丁度、部屋のドアが開いた。
「お友達?」
伯母さんはこちらを覗きながら、そう尋ねた。
『お邪魔しています』
「ど、どうも」
「こんにちは。ごゆっくりね」
伯母さんは挨拶がすむと、ゆっくりとドアを閉めた。こんなに人が来るなんて珍しいもんね。
「伊織くんの言う通りです。家のパソコンで出入りするときは、前以上に家族の目を気にしないと……」
「うん。部屋から突然私たちがいなくなっちゃったら、お母さんびっくりして警察に届けに行っちゃうかも」
「ああ……」
伯母さんが去った後、光子郎さんはそう注意を促した。ヒカリちゃんと太一さんも頷き合う。
「……対策を立てておかなければなりませんね」
光子郎さんは顎に手を当て、考え込んだ。私の家はともかく、ほかのご家庭だと工夫しなければならない。――何かよい方法はあるだろうか。