お台場メモリアル


 7月31日のお昼のこと。私たちはデジタルワールドでダークタワーを倒し、現実世界へ帰ってきた。夏休みだと、日中からデジタルワールドに行くことができる。これはなかなか便利だ。


「はら減ったあ……」

「帰ってくるなりお腹減った?」

 お腹を鳴らすチビモンに、ヒカリちゃんはくすくすと笑いながらそう尋ねた。


「しょうがないじゃん。だって本当にはら減ったんだもん!」

「よし! 今日はエリアをひとつ取り戻したし、みんなでランチにしようよ」

「ビンゴ! あたし新しいゲーム買ったんだ、みんなやりにこない?」

「なになに、なに買ったの?」

 タケルくんを皮切りに京ちゃんと大輔くんも、夏休みモードだ。私と飛鳥くんは笑い合った。学校の友達に会えないのは少し寂しいけど、京ちゃんたちとは毎日会えるからとっても楽しいな。
 そんな中伊織くんは何か思い詰めたような表情をして、会話の中に入ってこなかった。


「伊織くん、どうしたの?」

 それに気づいたヒカリちゃんが、伊織くんに声をかける。


「い、いえ……。なんだか、デジモンカイザーの動きがよく見えないなと思って」

「そういえばそうだな。エリアを広げてはいるけれど、これと言った動きがないかもしれない」

「何やってるんだろうな、あいつ……」

「気にすることないさ、こっちが優勢なんだよ!」

「うん、うん!」

 タケルくんの考察に、飛鳥くんは不安げに眉を潜ませた。対照的に大輔くんと京ちゃんは気楽な様子で笑う。
カイザーはデジタルワールドにこもりきりだから、色々と行動を起こすことができるのだろう。でも、このまま私たちを放っておくことはしない。こちらも何か対策を立てた方がいいかな――?



「でも、明日からはこの教室使えないんですよね」

「え、なんで?」

 京ちゃんは、きょとんとした様子で伊織くんに尋ねた。


「あっ、そうだった! 低学年の夏休みパソコン教室に使うんだ」

「ええ!? 聞いてねえよ!」

「ごめんごめん、言うの忘れてた。もう、京ちゃんも忘れちゃダメだよ?」

「あはは、面目ない。じゃあ、明日はデジタルワールドに入れないっていうことね」

 私が注意すると、京ちゃんはぽりぽりと頭をかいた。
光子郎さん、そろそろ検証は終わっただろうか。まあ数日で状況が変わることはないだろうし、明日行かなくても大丈夫だとは思うけど。


「あ、でも……。明日は僕たち、用事があるから、どっちみちここに来れないや」

「僕たち? 僕たちって?」

 大輔くんはタケルくんの発言に、ずいっと近寄った。


「私と、湊海お姉ちゃんと、タケルくん!」

 ヒカリちゃんは私とタケルくんの腕を掴み、大輔くんに笑いかけた。しかしそれが大輔くんには結構なダメージだったようで、顔面蒼白のとても衝撃を受けた表情を見せてくれた。


「な、なんだよ……。まま、まさか、で、でで、デート……!?」

「そんなんじゃないよ」

 ヒカリちゃんは笑いを噛み締めながら、大輔くんにそう答えた。


「そもそも、3人でデートってどういうこと……?」

「タケルならやりかねんだろ!」

 私が首を傾げると、大輔くんは牙を向いた。彼にとってタケルくんとはどんな存在だと思われているんだ。



「失礼だなあ。僕は結構真面目なんだよ。ね、湊海お姉ちゃん?」

 タケルくんはにこりと笑い、私の肩の上に手を乗せた。


「そうだよ大輔くん。タケルくんはきっと、本当に好きな人としかデートしないって」

「本当に好きな人、ねえ……」

 大輔くんくんは訝しんだ様子で、タケルくんと私を見比べた。どういう意味なの。


「と・に・か・く!」

 ヒカリちゃんは私たちを押しやると、大輔くんたちに手帳を見せた。


「これ、見てちょうだい」

「8分の1計画? なに、これ?」

「8月1日の計画だよ! 第一、そう読むんだったら1分の8計画じゃないかぁ!」

「確かに、そうですよね」

 タケルくんの指摘に、伊織くんもこくりと頷く。2学年も下の伊織くんにまで指摘された大輔くんは顔を真っ赤にさせた。そんな彼の様子を見て、私たちは大声で笑ってしまった。


「んだよ! どうせ俺は分数が苦手だよ!」

「まあまあみんな」

 そっぽを向いた大輔くんの頭を、飛鳥くんが優しく撫でる。



「誰だって間違いはあるんだから、そんなに笑わないの」

「あ、飛鳥さあああん!」

 飛鳥くんの胸に飛び込む大輔くんに、私たちは苦笑いを零した。この光景、どこかで見たことある気がする。


「5年生にもなって、分数読み間違えるとかあるのかしら」

「んん……? まあそこが可愛い!」

「どこが可愛いのよ……」

 私と京ちゃんは小声で会話を交わした。京ちゃんは私の返答に呆れたように横目で見つめる。えー? 大輔くん、とっても可愛いのに。京ちゃんもヒカリちゃんも、イマイチ大輔くんの魅力がわかってないみたいだ。



「みんなも、一緒に行かない?」

「えっ!? デートに!? 嫌だよ、タケルおっかねえもん……」

「だから違うって……」

 ヒカリちゃんが笑いながら大輔くんを宥めた。


「じゃあ、なに!?」




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