君ならきっと

「飛鳥さん!」

 その帰り道。伊織くんは飛鳥くんに声をかけた。飛鳥くんは不思議そうに後ろを振り向くと、伊織くんはぱたぱたと駆け足で近づいた。


「落ち込んでる僕を……ずっと励ましてくれて、ありがとうございました。迷惑かけて、ごめんなさい」

「そんな。謝らなくたって大丈夫だよ」

 頭を深く下げた伊織くんに、飛鳥くんは顔をあげるように促した。飛鳥くんが笑いかけると、伊織くんは安心したように息をつく。


「伊織はしっかりしてても1番年下なんだから。たまには、俺たちを頼ってくれたっていいだろ?」

「そうだよ伊織くん。そういうのも、大事だと思う」

「ほほお、よく言うねえ。湊海くん」

 私の言葉に、丈さんはニヤニヤとしながら肩を叩いた。


「なんですか、丈さん……」

「年上に頼っていいって言ったのに、結局最後の最後まで無理し続けたこと。僕、一生忘れないと思うな」

「あ、あれは! 私なりに考えて……!」

 せっかくの言葉を台無しにする丈さんを、私は慌てて止める。確かに昔は無茶を結構してたけれど……今はそこまでしていない、多分。それにしたって、わざわざ伊織くんの前で言うことないのに。これじゃ年上の格好がつかない――!


「ふ、ふふふ……」

「伊織くん、笑わない!」

 私がびしっと伊織くんを指さすと、彼はわたわたと手を振った。


「す、すみません……。こんなにしっかりしてる湊海さんでも、僕みたいに小さいときがあったんだな、って思って」

「そりゃそうよ。そういうもどかしい経験をして、人は大人になっていくのよ」

 京ちゃんは目を閉じながらうんうんと頷いた。さすが最年長。良いことを言う。


「京にしちゃ、珍しくまともなこと言ってんな」

「いつまでも子どもな大輔は黙ってなさい」

「何をぉ!?」

「大輔くん抑えて、どうどう」

 京ちゃんにあしらわれ暴れ狂う大輔くんを、私は笑いながら抑えた。そういう純粋な大輔くんだからこそ、良いんだと思うよ。私は。



「……僕も早く、みんなに頼られるような大人になりたいです」

「なれるよ。伊織くんなら、きっと」

 伊織くんの呟きに、丈さんは微笑んだ。――私もそう思う。伊織くんならきっと、誰よりも素敵な大人になれるって。
 私は伊織くんの丈さんの背中を見て、小さく笑った。大きくなった伊織くん、とても楽しみだな。




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