誠実


「でも、どうしてホエーモンに?」

「光子郎に頼んで、テントモンから協力をお願いしてもらったのさ!」

 ヒカリちゃんの質問に、丈さんはそう答えた。……あのときのホエーモン、なのかな。もしかしたら、生まれ変わったのだろうか。そうだとしたら、こんなに嬉しいことはない。


「何しているんです! 早くしてください!」

 伊織くんは下に残っている大輔くんとタケルくんにそう促したが、2人は動かなかった。



「伊織くん!」

「伊織の、デジメンタルだ!」

「僕の、デジメンタル……?」
 
 2人の発言に、伊織くんは首を傾げる。


「あ! あれは誠実の紋章じゃない!」

「誠実って、伊織にぴったりよね」

「そんなことないよ……」

「伊織くんにぴったりだと思うけどな?」

 テイルモンと丈さんはそう言ったが、伊織くんは納得していないようだった。誠実ほど、伊織くんを表すのにぴったりな言葉はないと思うけど――。よほど今回の件を気にしているのだろうか。


「さあ、早く降りてこい!」

「い、嫌です! みんながこうなったのも、そのデジメンタルのせいなんだ! そんなデジメンタルなんか……」

 伊織くんはデジメンタルから目を逸らした。その後ろでは、京ちゃんが咳き込んでいる。私とホークモンは、京ちゃんの背中を撫でた。



「それより早くここを脱出しましょう!」

「ああ、するさ! このデジメンタルを手に入れたらな!」

「だから、いらないんですって!」

「伊織!」

 飛鳥くんの強い口調に、伊織くんは思わず振り向いた。


「……あのデジメンタルは、みんなで掘ったものなんだ。こうやって俺たちを助けてくれた、誠実な伊織のために。だから、そんなこと言わないで。城戸先輩も悲しむぞ?」

「飛鳥さん……」

 飛鳥くんは、伊織くんの肩にぽんと手をおき、笑いかけた。――さすが飛鳥くん。伊織くんの瞳には、明らかに動揺が浮かんでいた。これならデジメンタルを放って脱出、なんてことはないだろう。


「でも、僕……」

「そうだ! このまま誠実の紋章を海の藻屑にしてたまるかよ!」

 丈さんは飛鳥くんに同調し、伊織くんの手を取った。


「伊織くん、さあ、一緒に来てくれ!」

 こうして2人は、下に降りていった。私たちはじっと、それを見守る。


「さあ、持ち上げてみるんだ」

 丈さんが促したが、伊織くんは動かない。


「持ち上げろったら」

「無理だよ。持ち上げられないよ」

「そんなこと、やってみないとわからないじゃない?」

 タケルくんが優しく諭すが、伊織くんは首を横に振った。


「だって、だって、僕のせいでみんなが危ない目に合ったし……」

「え、そうだっけ?」

「それ言われたら、シャッター閉じた俺たちだって……」

「誰も悪くないって!」

 大輔くんとブイモンに、タケルくんはそうフォローする。しかし、伊織くんの感情の爆発は治まらないようで、みるみるうちに目に涙が溜まっていた。


「それに僕、嘘ついちゃったの。嘘だけはいけないって、おじい様に言われたのに……。だから、僕には誠実のデジメンタルを持つ資格なんてないの……!」

 普段の敬語も使わず、伊織くんはボロボロと涙を零した。真面目な伊織くんにとって、おじいさんの言いつけを破り、嘘をついたことは、とても辛いことだっただろう。気持ちがひしひしと伝わってくる。


「……嘘にはね、ついていい嘘とついて悪い嘘があるんだよ」

 丈さんは伊織くんの肩を優しく抱いた。


「え……?」

「人を傷つける嘘と、人を助けるためにつく嘘!」

「そうそう、嘘も方便というだぎゃ、」

「そういうことだよ!」

 ――そう。その嘘は私たちにとっては必要なものだった。伊織くんは人を騙そうとして、嘘を言ったわけではない。それは、この場にいる全員がわかっていることだ。罪悪感なんて、感じる必要は全くない。


「でも……」

「なんだったらさ、帰ってから僕が伊織くんのじいさんに事情を説明する。少なくとも、僕は君の嘘で傷ついてないし。逆に君が、嘘をつかなかったら、どんなことになってたか……」

「丈さん……」

 伊織くんは涙を拭うと、真っ直ぐ丈さんを見据えた。


「わかってくれたね?」

「はい!」

「さあ伊織、持ち上げてみるだぎゃ!」

 伊織くんはデジメンタルに手をかけ、恐る恐る持ち上げる。するとすんなりと、デジメンタルは持ち上がった。そこからは紺色の光が漏れている。


「ほら、やっぱり伊織のだ!」

「伊織、アーマー進化だぎゃ!」

 アルマジモンに頷き、伊織くんはデジメンタルを掲げた。


「デジメンタルアーップ!」

「アルマジモン、アーマー進化! 渦巻く誠実、サブマリモン!」




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