「見て見て、大輔くん! 海の景色、とても綺麗だよ。余計なものもいるけど」
深海の様子を見て私は歓声をあげた。メガシードラモンは邪魔だが、海の中はやっぱり美しい。以前の冒険のときでも見たが、何度見ても良いものだ。
「なに呑気なこと言ってんの、湊海ちゃん!?」
「……でも、これくらいしかやること、ないじゃない?」
その私の言葉に、大輔くんは口元を歪ませ、大声で叫んだ。
「ちくしょおおお!」
「でもどうして、襲ってこないのかしら……」
京ちゃんが不思議そう呟く。
「時間の問題だからですよ。だって、ここの空気がなくなったら、僕たちは……」
そんなタケルくんの言葉を、ヒカリちゃんがそっと制した。そのままヒカリちゃんは後ろに目線を移す。デジモンたちは心無しか、ぐったりとしていた。
「僕のせいだ……。僕のせいで……」
「伊織、大丈夫だよ。大丈夫」
隅では伊織くんが膝を抱え込んで、自分を責めている。そんな伊織くんを、飛鳥くんは慰めていた。
この場だと、私より飛鳥くんの方が適任だろう。
なぜ、こんな事態になったかというと、話は数時間前まで遡る。
私たちはデジメンタルの反応を辿って、海辺まで来ていた。そこには油田があるようで、大きな建物が備わっている。私たちは橋の中央まで来て、D-3を取り出した。
「デジメンタル?」
「ああ……」
大輔くんはじっとD-3を見つめた。
「この海底油田のどこかにあるんだな」
「きっと、僕のだ!」
「そうだぎゃ!」
「それはどうでしょう。タケルくんやヒカリさん、湊海さんや飛鳥さんのかもしれないし……」
興奮した様子の伊織くんとアルマジモンに、ホークモンはそう考察した。しかし、2人は全く聞いておらず、ホークモンの言葉を遮り、駆け出してしまった。
「どっちが先に着くか競走だ!」
「負けないだぎゃ!」
「んもう! 焦っちゃって!」
「ふふ、無邪気な伊織くんは可愛いじゃない」
伊織くんたちを追いかけるため、私たちも走り出す。呆れ気味の京ちゃんに、私はそう返した。
――しかし建物に入った途端、突然地響きが起こる。警告音がしたかと思うと、電気が全て消えてしまった。窓から外を見てみると、メガシードラモンがこの建物を壊そうと暴れていた。そのうち壁にヒビが入り、中に水が侵入してくる。
「うわあ、浸水だ!」
「どうする!?」
「どうするって……」
「大輔、これ何? 非常用シャッターって書いてあるけど」
「非常用……? それだ、それを押せ!」
「わかった!」
大輔くんの指示に、ブイモンはボタンを押した。その途端、天井のシャッターがひとつ、ふたつ、と全て閉まっていった。
「助かったあ」
「でも、どうする?」
その言葉に、私たちは一斉にテイルモンを見つめた。
「もう上には戻れない。つまり私たち、ここに閉じ込められてしまった」
――そう。深海で閉じ込められたとなると、周りに空気は一切ない。空気を流す設備なんてもちろん無いだろうし、私たちは結構なピンチに遭遇しているわけだ。
私は、深海を眺めながらじっと考えていた。私が焦っている様子を少しでも出したら、大輔くんたちが更に動揺してしまう。ここは私が落ち着いていつも通りにすることが、何よりも大切なのだ。
「僕のせいなんだ、僕のせいの……」
「伊織のせいって、何がだぎゃ?」
「そんなこともわからないの!?」
いつも通りの呑気なアルマジモンに、伊織くんは怒りを露わにして立ち上がった。
「僕が罠かどうかも確かめずに、中に入ったのがいけなかったんだ!」
「それは違うだぎゃ。たまたま伊織が一番先だっただけだぎゃ」
「僕のせいなんだ!」
「違うよ。伊織のせいじゃない。だからそんなに自分を責めないで」
「違います! 僕のせいです!」
先ほどから飛鳥くんがずっと宥めているが、責任感が強い伊織くんは、全く聞き入れようとしない。
「伊織くん……」
重い空気を明るくしようと努めるものの、なかなか上手くいかない。そんなときだった。
「ねえみんな、これ何かな?」
ふと、パタモンが声をあげる。
「おっ! 緊急脱出用ポッドと書かれてあります!」
「やった、助かったぜ!」
ホークモンの言葉に私たちは笑顔で、パタモンたちの方に駆け寄った。
「でも、1人用みたい……」
「湊海様たち、全員というわけにはいきませんね」
「多分デジモン用だし、仕方ないわ」
ラブラモンとロップモンは残念そうに呟いた。私たちも思わず眉を顰める。まあこんな大人数の、しかも人間が閉じ込められる事態なんて、想像しないよね――。