「疲れたあ……」
自分の部屋に戻ってきた私は、ベッドに倒れ込んだ。まさかデジタルワールドで、あんなに長くデジモンカイザーと話すことになるとは、思いも寄らなかった。そもそも、私ひとりを呼び出すなんて、夢にも考えなかった。やっぱり面白いわ、あいつ。
「……良かったのですか、湊海様。カイザーを放っておくなど」
ラブラモンは私のベッドに腰掛けると、心配そうにそう言った。うーん……と起き上がり、パソコンの電源を落とす。
「……良くは、ないと思う。でもカイザーは、私にハンカチを返してくれた。こんなもの、捨ててよかったのに」
私はポケットからハンカチを取り出し、じっと見つめた。あげるつもりで貸したハンカチだったが、カイザーはきちんと返してくれた。しかも洗って。礼儀正しいんだか頭おかしいんだか、さっぱりだ。
「どっちが、本当のカイザー……賢ちゃん、なんだろう。私にはよくわかんなくなっちゃった」
そっと机にハンカチを置き、ラブラモンの隣に座る。飛鳥くんと一緒に冒険をした、素直な賢ちゃん。ハンカチを返してくれた、優しい賢ちゃん。――デジモンを駒のように扱う、冷徹なデジモンカイザー。アグモンを暗黒進化させた、最低なデジモンカイザー。本当の彼は、どちらなのだろう。
「……だけど、カイザーはデジモンたちを傷つけ続けるのを、やめるなんてしないと思う。それは許せないし、絶対に止めないといけない」
「そうですね……」
ラブラモンは静かに頷いた。本当は優しかったとしても、今の行為を許すわけにはいかない。――許しては、いけない。私たちのD-3は、カイザーを倒すためにある。アーマー進化だって……。太一さんたちの分も、私たちはデジタルワールドを守らなければいけないのだ。
「今日のことは、私たちだけの秘密。私たちと……賢ちゃん、のね」
私はぎゅっとD-3を握った。今度会うときは敵――か。私も容赦はしないからね……賢ちゃん。