光子郎さんは飛鳥くんたちを帰したが、私にはまだ用事があるらしく、残っておくよう頼まれた。
「どうしました? 他に何か気になることでも?」
飛鳥くんを玄関まで送り、戻ってきた光子郎さんに、私はそう声をかけた。
「いえ。そういうわけではないんですが……」
ベッドに座っている私の横に、光子郎さんはゆっくりと腰をかけた。
「最近、ゆっくり2人で会う機会がなかったので」
「へ?」
予想外の言葉に、私の目は点になる。光子郎さんがまさか、そんなことを言うとは思わなかったからだ。
「実験自体は、京くんやタケルくんたちに頼んでも良かったんです。だけど……」
光子郎さんは私の手にそっと手を重ねると、頬を緩めた。
「僕が、湊海さんに会いたかったんです」
「え、ええ……?」
更に予想外の行動に、私は混乱した。いつもの光子郎さんなら、恥ずかしがってこんなことをしないはず。
それともこれが――オトナになった、ってことなのかな。歳はひとつしか変わらないのに、やけに光子郎さんが大人に見える。それは小学生と中学生だからか、はたまた……。
「ちょ、ちょっと……光子郎さん……? 熱でも……」
「ないです」
私が冗談めかしてそう言うと、光子郎さんはぴしゃりと真顔で返した。そういうところは昔から変わっていない。
光子郎さんはふっと笑うと、私の顔を指さした。
「貴女の方が顔、赤いですよ?」
「い、いやあ……。流石の私も、照れちゃいますよ……」
私は頭をぽりぽりかいた。これだから、光子郎さんには敵わない。パソコンでも、こういうことでも。
昔はからかうこともあったが、もし今やったら倍返しされそうだ。いや、もしかしてこれが仕返し――?
……でも、光子郎さんが私に会いたい、なんて思ってくれていたことは、素直に嬉しい。もしかしたら距離ができちゃったかもと思っていた私にとっては、これ以上にない言葉だった。
「……私も会いたかったです。光子郎さん」
私の言葉に、光子郎さんは嬉しそうに微笑んだ。
「もう少し、話していきませんか?」
「もちろん!」
結局その後は、夕飯までご馳走になった。久々な私の来訪に、光子郎さんのご両親は喜んでくれたようで、色々と話を聞かれた。今度また遊びに来る、と約束し、私たちは光子郎さんの家を後にした。