ある日の夜のこと。私はラブラモンに髪を乾かしてもらっていた。
「自分でできるのに……」
「私がやりたいんですよ。やらせてください」
私は口を尖らせる。ラブラモンは鼻歌を歌いながらドライヤーを動かし、髪をとかしていた。肉球ぷにぷにのくせに、器用な――。
「あら、湊海。いいわねぇラブラモンに面倒見てもらって」
「さすがラブラモンだな」
そんな私たちをお母さんとお父さんはくすくすと笑いながら見守っていた。
「んもう、そんなんじゃないって!」
ラブラモンがしっかりしているからか、両親はいつもラブラモンに「湊海の面倒見てやってね」と頼んでいる。私も来年には中学生になるというのに、扱いは変わらない。あーあ、子どもでいたいとは思うけど、やっぱり大人になりたいな。
『……それでは、次のニュースです。突然行方不明となった天才少年、一乗寺賢くんは、失踪から二ヶ月経った今も依然行方がわかっておりません。警察は、何らかの事件に巻き込まれたものと見て、捜索を続けています……』
テレビでは、カイザー……一乗寺賢のことが報道されている。親御さん、心配していることだろう。ずっとデジタルワールドに籠るなんて、何を考えているのか。とっととやっつけて、現実世界に送還せねば。
ふう、と息をついたそのとき、Dターミナルの着信音が鳴った。
「京ちゃんと光子郎さんからだ……」
「光子郎さん、ですか? 最近だと珍しいですね……」
「うん」
光子郎さんは中学校にあがってから、以前より頻繁にやり取りをすることは無くなっていた。私もデジタルワールドのことで色々あるし、光子郎さんも中学校生活や、私たちのサポートを積極的にしてくれているので、忙しいのだろう。
そんな光子郎さんだが、一体何を送ってきたのだろうか。私はDターミナルを開き、画面を見た。
『明日もデジタルワールドにレッツゴー! 京』
『明日の放課後、時間ありますか?もし大丈夫なようなら、飛鳥くんを連れて、僕の家に来てください。 光子郎』
「うーん……どうしよう。これは、京ちゃんと相談かなあ」
最近、カイザーは私たちの前にめっきり出てこなくなった。どうせろくでもないことを企んでいるので、今のうちに支配地域をひとつでも潰しておきたいところだが――。
とはいえ、光子郎さんのお誘いを無下にするのは悪い気がする。私は京ちゃんとメールのやり取りをすることにした。
『光子郎さんが、飛鳥くんと私で家に来て欲しいっていうの。どうしたらいいかな?』
『ええ!?何かそれ、あたしだけ仲間外れじゃない?泉先輩め……。
ま、いいわ。あの人のことだし、何か大切な用があるんじゃないかしら。デジタルワールドはあたしたちに任せて、行ってきたらどう?
湊海ちゃんいないと、ちょっと寂しいけど……。』
『京ちゃん呼ばないってことはパソコン部の用事、っていうわけじゃないみたいだよね。何なんだろう……。わかったら連絡するよ。
京ちゃんたちも頑張ってね。
ありがとう。私も京ちゃんがいないと、すこーし寂しいかな。おやすみ!』
その後光子郎さんと飛鳥くんにもメールを送り、私は眠りについた。何だかんだで光子郎さんの家に行くのも久々である。それを言ったら、呼び出されるのも久々なんだけど――。どうしたんだろう、光子郎さん。