純真は赤裸々



「私たちも、周りを探してみましょ!」

「OK!」

 ミミさんの掛け声で、歩き出そうとしたそのときだった。森の坂になっているところからゴロゴロとタマゴが転がってくる。もしかして、これは……?


「デジタマモン! 無事だったのね!」

「ええ、おかげさまでね……」

「よかった!」

 ミミさんが嬉しそうに声をあげる。


「随分遠くに飛ばされて、ようやく戻って来たところだ」

 そう言って殻から目を出したデジタマモンは、先程より鋭い目付きをしている気がした。飛ばされたことを怒っているのだろうか。


「さっきはありがとう、私達を庇ってくれて!」

「ミミさん待って! なんか、さっきと様子が違う!」

 駆け寄るミミさんに、京ちゃんがストップをかける。やはり、あの目付きは気のせいではないようだ。口調もなんだか荒いし、どうしたのだろう――。


「今度はお前たちを、はるか遠くへ行かせてやろうか……!」

「やっぱり……!」

 デジタマモンは殻から足を出し、ゆっくりと立ち上がった。京ちゃんが悔しそうに呟く。
デジタマモンはミミさんに向かって1歩足を踏み出した。ミミさんは驚いた様子で、後ずさりをする。


「ミミさん!」

 マイケルくんが思わず叫ぶ。


「京さん!」

「うん!」

 京ちゃんとホークモンは頷き合い、D-3を掲げた。


「デジメンタルアップ!」

「ホークモン、アーマー進化! 羽ばたく愛情、ホルスモン!」


「食らええええ!」

 デジタマモンは体当たりをしようと、ミミさんに向かっていく。ホルスモンは咄嗟に、ミミさんの前に立った。


「ぐわあっ!」

 しかしデジタマモンの威力はとんでもないようで、ホルスモンは地面に倒れてしまった。


「ホルスモン!」

 京ちゃんが心配そうにホルスモンを呼ぶ。


「大輔!」

「湊海様!」

「伊織ぃ!」

 パートナーの呼びかけに、私たちはD-3を構えた。デジタマモンはあれでも完全体。アーマー体で敵うか……!?
 進化したムースモンたちは、デジタマモンに向かっていった。


「ナックルファイヤー!」

 フレイドラモンが必殺技を放ったが、デジタマモンは殻に閉じこもり、それを防いだ。


「なに!?」

「ホーンブレード!」

 間髪入れずに、ムースモンも攻撃をしていく。しかし、デジタマモンには傷ひとつ付かなかった。あの殻、一体どうなっているのだろう。


「くっ……!」

「これならどうだぎゃ!」

 ディグモンがドリルをデジタマモン当てたが、全く壊れる様子はない。


「びくともせんだが……」

「こうなったら、同時攻撃だ!」

「待って!」

 構えをするムースモンたちの前に、ミミさんが立ち塞がった。


「みんな、デジタマモンに攻撃するのはちょっと待って!」

「どうして!」

 フレイドラモンはそう訊いたが、ミミさんは答えずに、デジタマモンに向き直った。


「デジタマモン、自分を取り戻して! 今のあなたは何か悪いものに操られているのよ、そうに違いないわ!」

「僕は誰にも操られてなんかいないさ、これが本当の僕なんだ!」

「違う、違うわ!」

「違わないさ!」

 何とか説得を試みようとするミミさんに、私たちは顔を見合わせ、彼女に駆け寄った。


「ミミさん、どうしようっていうんですか!?」

「デジタマモンだって、話せばきっとわかってくれるわ!」

「そんな馬鹿な!」

「そうだよ、無理だよ!」

「みんなは黙ってて!」

 ミミさんは京さんと大輔くんにそう言うと、再びデジタマモンの方を向いた。


「さっき言ってたじゃない。たとえわかってくれる人がいなくても、自分さえしっかりしていればいいんだって!」

「あ、あれは……」

 デジタマモンは動揺したように目を細めたが、すぐに鋭い目付きに戻る。


「あんな言葉を信じるなんて、君も甘いな! 油断させるために言ったのさ!」

「いいえ、嘘よ。誰もあなたを信じなくても、私だけはあなたを信じるわ」

「ふん、冗談じゃない。気色悪いことを言うのは止めてくれ!」

「いいえ、やめない! 絶対やめない! 頼まれたってやめないわ!」

「いい加減にしてくれ!」

デジタマモンがミミさんに向かって頭突きをかました。


「ミミさん!」

「ミミ!」

「ミミさん!」

 私は慌ててミミさんを受け止めた。あんなに信じてくれたミミさんに、このタマゴ何てことを――!


「信じるわ……。だから……本当の自分を、取り戻して……!」

 ミミさんは朦朧とした様子でそう呟く。さすがのデジタマモンをたじろぎ、後退りをした。ミミさん、あなたは本当にどこまでも……。


「本当の、自分……?」

 京ちゃんが小さな声で呟く。


「デジタマモン、ミミさんに謝りなさい! ずっと信じてくれてたのに、こんなことするなんて酷いよ! ミミさんが可哀想じゃない!」

 私がデジタマモンを睨みながらそう言うと、やつは頭をぶんぶんと振った。


「う、うるさい……うるさいうるさいうるさい!」

「うるさいうるさいうるさーいっ!」

 デジタマモンの声に被せ、京ちゃんが立ち上がる。私たちは呆気にとられて京ちゃんを見つめた。


「デジタマモン、あんた何考えてんのよ! 湊海ちゃんの言う通りよ! ミミさんに攻撃するなんて……、ミミさんはあたしなんかと違って、あんたのことを最初からずーっといい奴だって信じてたたのよ!」

 京ちゃんは先ほどのミミさんのように、ゆっくりとデジタマモンに近づいていく。


「今はっきり言ってやるわ。あんたなんてね、あたしは大嫌いよムカつくのよ! だって何考えてるんだかわかんないんだもん!
でもね、さっきゴリモンから庇ってくれたときは、あんたのこともしかしたらいい奴かもって、一瞬思ったのよ、本当なんだから! なのにどういうこと? よくも人の信頼を裏切ったわね!」

「何言ってるんだ、さっきまで僕のことを疑ってたくせに!」

「ええ、疑ってたわよ。確かにあたしは見た目で人を判断するわよ。そりゃそうでしょ、かっこいい方がいいに決まってるんだから! そうよ、あたしはかっこいい人が好きなの! だから、マイケルさんみたいなかっこいい人が好きなんですぅ!」

「……はあ?」

「京ちゃん、だいたーん……」

 京ちゃんの突然の告白に、私たちは思わず声を漏らした。京ちゃんらしいといえば、らしい。


「だってしょうがないでしょー! 誰がなんて言ったって、これが本当のあたしなんだもおおん!」

 その瞬間、京ちゃんの足元が激しく光を放つ。淡い緑色の光からは、デジメンタルがゆっくりと浮かんできた。


「どうなってんの?」

「デジメンタルだ……」

「あれは、純真の紋章……?」

 ミミさんが小さく呟く。京ちゃんは恐る恐るといった様子で、デジタマモンを手に乗せた。


「なんで……?」

「もしかしたら、京さんの赤裸々な心の叫びに反応したのかも!」

「赤裸々な心の叫びィ?」

 伊織くんの解説に、大輔くんは首を傾げた。純真ってそう意味なの? そういう意味……か?


「あたしの、ふたつめの……?」

「京さん!」

「うん!」

 ホークモンが退化したのを確認し、京ちゃんはデジメンタルを掲げた。


「デジメンタルアップ!」

「ホークモン、アーマー進化! 弾ける純真、シュリモン!」




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