私たちはデジメンタルを探しに、デジタルワールドへ来ていた。パソコン室で待機している光子郎さんに、京ちゃんがメールを送る。
「さ、行きましょう」
「うん」
京ちゃんはDターミナルをぱたんと閉じた。残るデジメンタルは純真と誠実。これはどちらの反応なんだろう。私はD-3をじっと見つめた。ふたつめの進化――。少しだけ憧れる。
「腹減ったあ……。チョコもうないのぉ?」
そんなことを考えていると、ブイモンが地べたに座り込んだ。どうやら疲れてしまったらしい。
「そういや、俺も腹ぺこだ……」
「もっとおやつ持ってくれば良かったな」
「チューチューゼリーもう無いだがや……」
「腹が減っては戦は出来ぬと言った所でしょうか……」
「ふふっ。やっぱり、一度戻りましょう」
しょげている大輔くんやデジモンたちの様子を見て、ヒカリちゃんはテイルモンと笑い合うとそう提案した。
「そうするか……」
「仕方ないですね」
「じゃあ光子郎さんにメールしなきゃ……」
私がDターミナルを取り出した、そのときだった。
「みんな!」
その声に、私たちはタケルくんの方を見た。
「湖のほとりにレストランがあるよ!」
「レストラン!?」
「やっただぎゃー!」
「これで、また戦が出来る!」
「まだ探すならそこでエネルギーを補給しなければ……」
ブイモンたちが大喜びしている横で、ラブラモンは冷静に呟いた。
「湊海様、お金は……」
「大丈夫だよ。ラブラモンと一緒にお手伝いしてる分、多めに貰ってるから。遠慮しないで」
「ありがとうございます!」
私がラブラモンの頭を撫でると、目を細めて笑った。尻尾を振っているところを見ると、とてもお腹が空いているようだ。私も軽く何か食べよーっと。
「飛鳥ぁ、私もお腹減ったわ! ただ、夕飯前だから控えめにしなきゃ……」
「そうだな、今日はハンバーグだし」
ロップモンは飛鳥くんの胸に飛び込んだ。飛鳥くんもロップモンに頷きながら、そう答えた。ハンバーグ……い、いいなあ。
「ええっ!? ハンバーグ! 俺食べたい!」
「俺も!」
同じことを思ったらしい大輔くんとブイモンが騒ぎ出す。でも夕ご飯前にハンバーグは――私はやめとこう。
「はいはい、早く行きましょう」
こうして、私たちはレストランに向かった。
レストランの前まで着くと、それはどうも既視感ある建物で、私は首を傾げた。
「湖近くの……レストラン……。それにこの見た目……」
私は隣にいるラブラモンに問いかけた。
「ラブラモン、覚えてる?」
「はっきりとではないですが……見たことがあるような……」
「だよね」
私たちは首を傾げた。多分、3年前の冒険で来たんだろうけど――イマイチ記憶がハッキリしない。どうしたものか。
「湊海、行こうぜ」
「あ、うん」
飛鳥くんに促され、私たちは中に入っていった。いや、でもやっぱりなあ――。後ろをちらりと振り返ったものの、やはり思い出すことはできなかった。
気になったものの、わからないものは仕方ない。私たちは各々注文し、食事を楽しんだ。ちなみに大輔くんたちは、やっぱりハンバーグを頼んでいた。男の子は元気でいいね。
私とラブラモンはフライドポテトとパフェを半分こして食べた。ここのレストラン、なかなか美味しいぞ。ただレストランで食事をした記憶は特にないんだよなあ……。見かけただけ?
『あー、うまかったあ!』
「デジタルワールドでこーんなに美味しいものを食べられるとは思わなかったわ!」
「そうですね」
満足げな大輔くんたちだったが、タケルくんは辺りをキョロキョロと見渡していた。
「タケル、どうしたの?」
「うん、さっきから気になってたんだけど……。ここ、前にも来たことがあるような気がするんだ」
「やっぱり? 私も気になってて」
「ここ? 私は覚えてないけど……」
「すみませーん! お会計お願いします!」
私たちが首を傾げている間に、京ちゃんがお店の人に声をかけた。
「はーい、ありがとうございますぅ!」
そこで出てきたデジタマモンに、私は眉を潜めた。――なんか、こいつにいい思い出がないような……。
デジタマモンが気になりつつも、私は京ちゃんに続いてレジの方へ向かった。
「おいくらですか?」
「皆さんで87ドルになります」
「え?」
聞きなれない単位に、京ちゃんが思わず聞き返す。
「え? ですから、87ドルです」
「あの、円だったらいくらですか?」
「え?」
「え? ですから、円だと……」
「うちはドルしか扱ってないよ」
「多分87ドルってことは、9000円くらいだと思うけど……」
私と京ちゃんは顔を見合わせた。日本人は普通、ドル札なんて持っていない。
「京さん、湊海お姉ちゃん、どうしたの?」
私たちの戸惑う様子を見て、タケルくんたちがこちらに寄ってきた。
「87ドルだって……」
「ドル?」
「ドルなんて持ってないわ」
「ということは……」
私たちはデジタマモンの方を見た。デジタマモンは疑わしげな目でこちらを睨む。
「あんたら、無銭飲食だね?」
「あ、いや、お金はあります! ほら!」
「うちはドルだよ! それ以外は紙切れと一緒なの!」
「そんな、いいじゃない! 円だってドルだって同じよ!」
「そうだよ、価値は変わんないじゃん!」
「どこが同じなんだ! ドルで払わなきゃ、無銭飲食だ!」
「むっかつくぅ!」
「何なのこのタマゴ……」
私と京ちゃんはデジタマモンを睨んだ。そもそもデジタルワールドの通貨はドルなのかよ。初めて知った。
「代金分、働いて返してもらいましょうか?」
「どこかで、聞いたような話だな……」
タケルくんが冷静に呟く。もう前に来たとかどうだとか何でもよくなったが、このタマゴは気に食わない。