タケルくんと一緒に5年生の教室に向かう。
「ヒカリちゃーん……?」
教室に着き、中をキョロキョロと見渡したが、ヒカリちゃんはいない。
「あー……ランドセル無いから、帰っちゃったのかも」
タケルくんはヒカリちゃんのロッカーを覗くと、苦笑いを零す。
「行き違いになっちゃったか……」
私は頭をぽりぽりとかいた。今出たばかりなら、間に合うかな――? 駆け足で扉の方へ向かう。
「私、ヒカリちゃん送ってくるから、みんなにそう伝えといて!」
「了解!」
タケルくんが頷いたのを確認し、昇降口へ向かう。パソコン室に来ないで帰ってしまうなんて、よほど具合が悪かったのだろう。こういうときこそ、頼ってくれていいのに――。しかしヒカリちゃんのことだから、私に余計な心配をかけたくないとでも思っているのかもしれない。しっかり送っていってあげないと……。
「湊海!」
「うわっ!」
昇降口で靴を履いていると、突然誰かに声をかけられる。驚いて声をあげ、前を見ると、そこには息を切らせたテイルモンがいた。
「て、テイルモン! ダメだよ、こんなとこで声出しちゃ……」
「ヒカリが……!」
よく見ると、テイルモンは赤いランドセルを抱えていた。
「そのランドセルって……」
「ヒカリが……私の目の前で消えたんだ……!」
テイルモンの言葉に、私は目を見開いた。まさか……!
急いで外へ飛び出し、ヒカリちゃんが消えた場所へと向かう。
「ここで、ヒカリが突然……」
「……テイルモン。タケルくんたちに伝えてきて」
テイルモンは頷くと、学校へ戻っていった。私はそのまま、目の前の海に向かう。
恐らく、ヒカリちゃんは『黒い海』に行ってしまったんだと思う。私が一緒にいたら――と思ったが、私がいたところで、ヒカリちゃんはひとりで連れていかれただろう。 その海に、私は必要とされていない。
デジタルワールド……とはまた違うのだろうか。だったら、デジヴァイスの力では――。私はぎゅっとポケットのD-3を握った。今回ばかりは、役に立つことはなさそうだ。
「ヒカリちゃああああん!」
海に向かって大声で呼んでみたものの、もちろん返事はない。私は目元を拭った。ヒカリちゃん、どこにいるの……?
「ヒカリちゃん!」
しばらく辺りを探したが、やはり見つからない。そもそもこの世界にいないのだから、こんなことをして意味があるのか――?
現実世界とデジタルワールド、そしてヒカリちゃんが迷い込んでしまった世界。多分全部繋がっている。繋がっているけれど、行けるとは限らない。私は一体どうしたら……。
「ヒカリちゃん……」
私は溢れる涙を抑えながら、地面に座り込んだ。こんなとき、太一さんがいてくれたら――と、私ですら思ってしまう。情けないったらありゃしない。私は、ヒカリちゃんのお姉ちゃんなのに……!
「湊海様!」
「湊海お姉ちゃん!」
その声に、私は顔をあげた。
「ラブラモン、タケルくん……」
ラブラモンは私の前に跪くと、真っ直ぐな目でこう言った。
「湊海様、ヒカリさんは私たちで救ってみせます。ですから、一緒に探しましょう。ヒカリさんは、必ず見つかります」
「うん……!」
私が頷くと、ラブラモンはにこりと笑った。いつもラブラモンは私が落ち込むと、励ましてくれる。……だから、頑張らないと、という気持ちになる。
「僕にはあんなこと言っといて、湊海お姉ちゃんも結構泣き虫じゃない?」
タケルくんは隣に座り、背中をそっと撫でてくれた。
「泣かないで。湊海お姉ちゃんが悲しいと、僕……ヒカリちゃんも、辛いから」
「……ごめんね」
私がそう謝ると、タケルくんは私の頭を優しく撫でた。これじゃあどっちが年上かわからない。立場なくなっちゃうよ。
「タケルのハンカチ、貸してあげるね!」
「ふふ、ありがとう」
パタモンからハンカチを受け取り、目元を拭う。……後で洗って、返さないと。
「湊海」
するとテイルモンが、私の胸元に飛び込んできた。
「私、わかったんだ。私たちが想えば、ヒカリに届くって」
「想えば……?」
「そう。湊海が、私が、ヒカリを好きだって想い。大切だって想い。必要だって想い……。そんな想いはきっと、次元すら飛び越える」
テイルモンは私をじっと見据えながら、そう言った。
「想い……か」
私は小さく呟いた。ヒカリちゃんへの想い――。私のこの想いは、太一さんにだって、テイルモンにだって、タケルくんにだって、負けない。きっとヒカリちゃんだって、私のことを……!
私が立ち上がるのを見て、タケルくんはこう声をかけた。
「よし、行こう!」
私たちは大きく頷いて、走り出した。ヒカリちゃん、待っててね。必ず、貴女の元へ行ってみせるから――。