その翌日、私は京ちゃんと飛鳥くんに詰め寄られた。どうやら、私とヒカリちゃんがお散歩をしている間に、ピヨモンからSOSがあったらしい。
「もう! 本当に大変だったんだからね!」
「ダークタワー倒した後もしばらくトランプやらされて、帰れなかったよ……」
京ちゃんはぷりぷりと怒りながら、私の肩を揺らす。一方飛鳥くんは疲れ果てた様子で、私たちの様子を見守っていた。
「ごめん、ごめんって! 次からDターミナル持ち歩くようにするから!」
「絶対だからね!」
「頼むぞ……!」
真剣な顔で私に頼み込む2人に、私は冷や汗をかいた。少し怖い。
それにしてもまさか私たちが散歩に行っている間に、SOSが来るとは思わなかった。ちなみに、タケルくんも来なかったようだ。話を聞いたところ、パタモンと仲良くお昼頃まで寝ていたらしい。平日の疲れがどっと出たのだろう。まあ私たちがいなくても、何とか解決出来たようなので。良かった……かな?
そして、数日経ったある日のこと。私とヒカリちゃんは一緒に登校をしていた。
「………」
「ヒカリちゃん、あんまり調子良くなさそうだけど大丈夫?」
あまり言葉を発さないヒカリちゃんに、私は声をかけた。
「無理しちゃダメだよ」
「……うん」
ヒカリちゃんはこくりと頷いた。そうは言っても、やはり心配だ。ヒカリちゃん、いつも無理をするし――。タケルくんに頼んで、クラスでも様子を見てもらおう。
するとヒカリちゃんは、急に後ろを振り返った。
「お兄ちゃ……!」
ヒカリちゃんは笑顔でそう言いかけたが、後ろにいたのはタケルくんだった。そもそも中学校は方向が違うし、朝練あるだろうし、この時間帯に太一さんは絶対いない。ヒカリちゃんったら、一体どうしたのだろう。
「タケルく……お、おはよ!」
ヒカリちゃんは頬を染めながらタケルくんに挨拶をした。タケルくんは驚いたように、ヒカリちゃんをじっと見つめる。
「おはよ、タケルくん」
「う、うん……」
「早く行かないと遅刻するぜ!」
横を通りかかった大輔くんが、駆け足をしながら声をかけた。チャイムの鳴っている音が聞こえたため、私たちは急いで走り出す。
「タケルくん」
「なに?」
大輔くんとヒカリちゃんの背中を見つつ、私はタケルくんに話しかけた。タケルくんもこちらを見ることなく、返事をする。
「ヒカリちゃん、今日調子悪いみたいだから、ちょっと様子見ててくれないかな?」
「わかった。任せて」
私が小声でそう頼むと、タケルくんは私のランドセルをぽんと叩いた。
大輔くんに頼むと、まとわりついてヒカリちゃんが余計具合悪くなりそうだったため、今回は遠慮した。タケルくんなら上手く気遣いつつ、やってくれるだろう。
ずっとヒカリちゃんが心配だったものの、何とか1日を過ごし終える。
「湊海ちゃん、早くパソコン室行きましょ! Dターミナルのプロトコル、拡張するの手伝ってよ!」
京ちゃんが目を輝かせながら、私の腕を引っ張ってきた。罪悪感が湧きつつも、そっと手を離し、ランドセルを背負う。
「ごめん。今日はちょっと……後から行くから」
「ええ!?」
京ちゃんは残念そうに声をあげる。そんな彼女の肩に、飛鳥くんが手を乗せた。
「じゃあ湊海が来るまでは、俺が手伝っておくよ。いいだろ、京?」
「もう、しょうがないわね……。湊海ちゃん、待ってるからね!」
「うん。また後で」
私は2人を見送られつつ、教室を飛び出した。早くヒカリちゃんを家まで送らないと。あの様子じゃ、デジタルワールドに行かせるわけにはいかない。足早に5年生の教室へ向かうと、曲がり角で人とぶつかりそうになった。
「うわっ……!」
何とか避けたが、その拍子にバランスを崩し、思いっきり尻餅をついてしまう。
「いててて……」
「ご、ごめんなさい。大丈夫ですか……って」
腰を抑えつつ、上を見上げると、そこにいたのは――。
「湊海お姉ちゃん……」
「タケルくん!」
タケルくんは眉を潜めて、私をじっと見つめた。そのまま私の手を掴み、そっと立たせてくれる。
「ごめんね、大丈夫?」
「それはいいけど……どうしたの?」
私がそう訊くと、タケルくんはにこりと笑った。
「……何が?」
そのタケルくんの行動に私はむっとして、おでこをパチンと弾いた。
「いったあ……いきなり何するんだ!」
「……あのねぇ。そんな表情しても、騙せるのはヤマトさんくらいだよ」
おでこを抑えるタケルくんに、私は腕組みをして言い聞かせた。彼は基本的にいつも笑顔だが、無理して笑うときがたまにある。そのときのタケルくんの笑顔は、少し不自然だ。心配をかけたくない、迷惑をかけたくない。そんな気持ちが、表情に現れている。もうタケルくんとも長い付き合いだ。そんな彼のサインを、見逃すわけがない。
「私を甘く見ないこと。ちょっと来て」
タケルくんの腕を引っ張り、近くの準備室に入り込む。
「ここは……?」
「空き教室になってる準備室。6年ならみんな知ってるけど、今の時間なら誰も来ないと思う」
タケルくんは周りをキョロキョロと見渡した。私はゆっくりと扉を閉め、タケルくんと向き直る。
「……何があったの?」
そう尋ねると、タケルくんは諦めたようで、ぽつぽつと話し始めた。