ライドラモンは、フレイドラモンとは違い、4足歩行らしい。全身は黒色で、頭の先の稲妻の形の角が、とてもかっこいい。ガルルモンと同じように、スピードも早そうだ。
「1体のデジモンが、2種類のアーマー進化をするんだ!」
伊織くんが嬉しそうに叫んだ。となると、残りの純真と誠実も引き継げる、というわけか。何となくその人物がわかるのは――みんな、とても良い子だってことだね。
「ふん。やれ、メタルグレイモン!」
しかしカイザーはお構い無しにメタルグレイモンに命令し、攻撃を仕掛けていく。
「ブルーサンダー!」
ライドラモンはひらりとそれをかわし、反撃をする。
「当たった!」
必殺技はイービルスパイラルに命中したが、それでも上手く外れない。
「ダメだ! 外れない!」
「ふふふ、無駄だね……」
カイザーは私たちの様子を見て不敵に笑う。さっきまで焦ってたくせに、愉快な奴だ。
「どうしても外れないのか!? ずっとこのままだと言うのか!?」
「いや、絶対に外してみせる! 俺を信じろ!」
ヤマトさん弱気な太一さんに喝を入れた。
「アグモン、思い出すんだ! 太一のことを、俺のことを!」
「大輔、お前もアグモンのことを信じろ! 自分を信じろ!」
「ヤマトさん……」
ヤマトさんは大輔くんにも同じように、激励していく。大輔くんは何かを決意したように、拳を固く握った。
「大輔くん! ライドラモンと一緒に戦うんだ!」
「一緒に?」
「大輔、背中に乗って!」
タケルくんが大輔くんにそう促したが、イマイチピンとこないようで首を傾げる。そんな大輔くんに、ライドラモンが背中を見せた。
「そうだ……ライドラモンと一緒なら、俺にもできるはず……。いや、俺たちにしか出来ない!」
「大輔、行くぞ!」
「はい!」
大輔くんはヤマトさんに元気よく返事をした。ライドラモンはガルルモンの隣に並び、メタルグレイモンを見据える。
「ライドラモンいいか? 気合いを入れて行くぞ!」
「ああ、任せろ!」
「頼むぞ!」
太一さんの言葉を背に、ガルルモンとライドラモンは、メタルグレイモンに立ち向かっていく。
「フォックスファイヤー!」
メタルグレイモンはガルルモンの炎を避けようと動いたが、その隙をライドラモンが狙っていく。
「ライトニングブレード!」
ライドラモンの攻撃が、再びイービルスパイラルに命中する。
お願い――今度こそは……!
私たちは固唾を呑んで見守る。するとその瞬間、イービルスパイラルは粉々になり、見事破壊された。
「やった!」
「外れた!」
「なにぃ!?」
カイザーが叫び声をあげたと同時に、メタルグレイモンは退化していく。するとタイミング良くエアドラモンがやって来て、カイザーを回収していった。よく躾ていること。
その間にアグモンと太一さんはしっかり抱き締めあっていた。――本当に、良かった。
「大輔くん、すごいね! アグモンを取り戻したね!」
「意外とやるじゃん!」
「すごいぞ、大輔くん!」
ヒカリちゃんや京ちゃん、飛鳥くんが口々に大輔くんを褒め称える。
「……やった?」
「やった、みたいだな」
しかし大輔くんは呆然とした様子で、ライドラモンから降りようとしない。
「大輔くん?」
「どうしちゃったのかな」
「自分で自分が何をしたのか、よくわかってないようですね」
「大輔、上出来だ! よくやったな!」
しかさヤマトさんはお構い無しに、大輔くんの頭を掴み、ぐしゃぐしゃと撫で回した。
「え? はあ……」
「大輔くん!」
私は勢いよくライドラモンに飛び乗り、大輔くんを背中から抱き締めた。
「うわっ! 湊海ちゃん!?」
「本当に、かっこよかったよ!」
私は更に力を込めて、大輔くんを抱き締めた。私ひとりじゃ、太一さんを悲しませっぱなしだった。ありがとう、アグモンを取り戻してくれて……。
「お、おう」
大輔くんは顔を赤くして頷くと、私の腕をそっと離した。おや、彼にしては珍しい反応。
「さすがにこれは、みんなの前だと恥ずかしいって……」
「あは、ごめんごめん」
私は大輔くんの頭をぽんぽんと撫でた。可愛い奴め。
「なーにその言い方。みんなの前じゃなきゃ良いみたいな……?」
タケルくんが横にぬっと出たかと思うと、目を細めて大輔くんを見た。
「た、タケルこわ……」
「ほう。俺の妹分に手を出すとは、大輔もなかなか勇気があるみたいだな……?」
太一さんもいつの間にか戻ってきたようで、手をわきわきとさせながら、大輔くんにゆっくりと近づいていく。うわあ、怖い。
「ち! 違います太一さん! 誤解ですって!」
大輔くんはライドラモンから飛び降り、何とか弁明しようとした。私も続けてゆっくりと降り立つ。
「そうですよ、大輔くんが好きなのはヒカ……」
「ああ!? どっちにしても妹じゃないかよ!」
「もおおお、湊海ちゃん!」
大輔くんをフォローしようとそう言ったが、火に油を注いでしまったようだ。大輔くんは涙目で、私の後ろに回った。
「ダメですよ太一さん。大輔くんは私の弟分なんですから。あんまりいじめちゃ、ね?」
私は太一さんの前に、ぴしっと人差し指を立てた。
「ったく、自分のことはおいといて、湊海も言うようになったなあ」
太一さんは苦笑いをして、私と大輔くんの頭を撫でた。大輔くんをいじめていいのは私だけ……なーんてね。