「くそっ、ファイアー……」
「やめろ、フレイドラモン!」
フレイドラモンは何とかしようとイービルスパイラルを狙っていったが、慌てた様子で大輔くんが止める。
「パタモンを傷つけたらどうするんだ!」
「ごめん大輔、でも……!」
「パタモンとカイザーが近すぎる!」
ホルスモンが悔しそうに叫んだ。いやでも、パタモンが暗黒進化するより、少し傷ついてでも取り戻した方が絶対に良い。言い方は悪いが……アーマー体の必殺技が当たっても、パタモンは死ぬことはないだろう。――頭では分かっている。でも、パタモンを傷つけたくない……。D-3を掲げようとするが、どうしても手の震えが収まらない。私はなんて、情けないやつなんだ。
「湊海様……」
私の様子に気づいたラブラモンがそっと声をかけてきた。ラブラモンに余計な心配はかけさせたくない。私はラブラモンの頭の上にそっと手を乗せた。しかし、ここからどうすれば――。
「手も足も出ない……」
大輔くんも私と同じ気持ちのようで、立ち往生していた。やはりここは傷つけてでも、行動しなければいけないのだろうか……。
「何してんだ!?」
そんなことを考えているとき、タケルくんが珍しく大声で怒鳴った。自分に言われたのかと思い、思わずぴくりと肩を震わす。
「た、タケルく……」
「なんだと!?」
そんなタケルくんの言葉に、大輔くんが素早く反応する。どうやら、さっきの言葉は私に向けてではなく、大輔くんに向けたもののようだ。しかし、私も怒鳴られても仕方ない。躊躇して、何もできなかったのだから。
「早くパタモンを取り戻すんだ!」
「そんなことわかってるさ!」
「黙って見てるだけじゃダメなんだよ!」
「誰が黙って見てるって言うんだよ!?」
そうこうしているうちに、大輔くんとタケルくんはまた喧嘩を始めた。しかしこのふたりが喧嘩というのは、ある意味珍しい。いや、大輔くんがいつも喧嘩を吹っかけていることはいるのだが、タケルくんはまるで相手にしていない。――もしかすると、それだけタケルくんも余裕がないのかもしれない。……年上の私がこんなんじゃ、当然か。ごめんね、タケルくん。
「ああ! 2人ともやめてよ! 喧嘩してる場合じゃないでしょ!?」
京ちゃんが間に入るが、2人は全く喧嘩を止める様子がない。しびれを切らした京ちゃんは、私の方にも呼びかけた。
「湊海ちゃんも何ボーッと見てるの! 止めてよ!」
「……あ、ごめんごめん」
私は頭をかくと、先ほどと同じように大輔くんの腕を引っ張り、こちらに寄せた。
「こら、大輔くん。少し落ち着きなさい」
「うぐう……!」
大輔くんはまだ暴れ足りないようだが、これ以上は見過ごせない。続きはパタモンとアグモンを取り戻したら、湊海ちゃんが特等席で見ててあげる。
「あははははは! ネズミどもめ何をやっている。もう仲間割れか? しょせんお前たちの友情なんてその程度のものなんだなあ……」
カイザーは何やら誇らしげな様子でそう言い放った。その言い方だと『俺の方が良いダチを作れるんだぜぇ?』という風にしか聞こえないのだけど。何なんだろうこいつは。
「パタモンは絶対にお前なんかの言いなりになんかさせない!」
「それに、アグモンもな!」
タケルくんと太一さんは、カイザーの方をぎっと睨んだ。
「ふんっ、ふざけたことを。取り返せるものなら取り返してみろ……!」
カイザーはにやりと笑い、パタモンにイービルスパイラルをゆっくりと近づけていく。
「それを、僕にはめるつもりなのか……!?」
「その通りさ。お前の愚かな仲間たちに、この素晴らしい実験を見せてやるのさ……」
「パタモン!」
カイザーの言葉を聞くや否や、タケルくんは真っ先に駆け出した。――しかし、メタルグレイモンはその行動を許さない。タケルくんに向かって、攻撃を放とうと構えた。
「危ない!」
「タケル!」
私が思わず叫ぶと、太一さんが間一髪のところでタケルくんを突き飛ばした。2人のすぐ横をメタルグレイモンの腕が飛ぶ。――あ、危なかった。私も人のことを言えないが、タケルくんもだいぶ無茶をする。太一さんがいてくれて良かった。そう、ほっと息をついたそのときだった。