誘拐

「うわ、何だこの音!?」

「耳が痛い!」

 私はぐっと耳を抑えた。こんな音をまともに聞いたら、頭がおかしくなりそうだ。


「何か飛んできた!」

 京ちゃんの視線の先を見ると、こちらに向かってフライモンが飛んできていた。もちろん、体にはイービルリングをはめている。


「気をつけろ!」

 フライモンは猛毒の針を私たちの方へ飛ばしてきた。こんなの当たったらどうなるか……! 
私たちは何とか避けていたが、そのうちの1本がパタモンにかすってしまう。



「パタモン!」

「ああっ、パタモン!」

 タケルくんと近くにいた私は、パタモンの元へ駆け寄った。あんな小さな体で毒針を刺されてしまうなんて――大丈夫だろうか……?



「大輔!」

「よし! デジメンタルアップ!」

 大輔くんはブイモンの呼びかけに頷き、D-3を掲げた。


「ブイモン、アーマー進化!
燃え上がる勇気、フレイドラモン!」

 進化して早々に、フレイドラモンは攻撃態勢に入った。


「ファイアロケット!」

 しかしフライモンは、軽々と必殺技をかわしていく。なんてスピードなんだ、奴は……。


「ふうん! ホークモン!」

「はい!」

「デジメンタルアップ!」

 続けて京ちゃんも変な構えをした後、D-3を掲げていく。


「ホークモン、アーマー進化! 羽ばたく愛情、ホルスモン!」

「テンペストウィング!」

 ホルスモンの攻撃をも、フライモンはひょうひょうと避けていく。そして奴は、私たちに向かって突っ込んできたかと思うと、再び不快な音を辺りに響かせた。


「うう……!」

 特別な超音波でも出ているのだろうか。耳が痛いどころか気分まで悪くなってきたため、思わず地面に座り込む。


「パタモン、パタモンがいない!」

 気づいた頃には、フライモンどころか、パタモンまでいなくなってしまった。


「なに!?」

「パタモンが!?」

「あ、あれ!」

 京ちゃんの指をさした方向を見ると、空高く飛んでいくフライモンの姿を見つけた。そのフライモンはというと、何とパタモンを抱えている。


「パタモン!」

 タケルくんは悲痛そうな声で叫んだ。



「そんな! パタモンまで!」

 私たちはパタモンを追いかけていったが、突然地響きがしたかと思うと、地面が大きく揺れる。私はバランスが取れなくなり、転んでしまった。


「大丈夫ですか、湊海様!?」

「うん、何とか……」

 腰を押さえながら立ち上がると、そこにいたのは――。


「メタルグレイモン!」

「湊海、タケル、大輔! 気をつけろ!」

 私たちの目の前には、メタルグレイモンがいた。その肩には、デジモンカイザーが乗っている。


「ふふふ……」

 怪しく笑うカイザーに、タケルくんと大輔くんは鋭い目付きで睨みつけた。今日も相変わらず、爆発ヘアーだ。
しかしフライモンはその間にも、カイザーのところへ近づいていく。


「パタモン! パタモーン!」

「これ以上させるか……!」

 私たちに追いついた飛鳥くんは眉を歪ませ、D-3を高く掲げた。


「デジメンタルアップ!」

「ロップモン、アーマー進化! 奇跡の盾、メイルドラモン!」

 メイルドラモンは急上昇し、カイザーの元へ向かった。


「おっと、いいのかな? またこいつに毒針を刺すことなんて、簡単にできるんだぞ?」

「くっ……」

 しかし、メイルドラモンがパタモンを助けようとした途端、カイザーが脅しをかける。くそ、なんてずるい奴なんだ――!


「卑怯者め!」

「ふん、なんとでも言うがいい」

 カイザーは鼻で笑うと、懐からイービルスパイラルを取り出した。


「イービルスパイラル!」

「それをどうするつもりだ!」

「ふたつめのイービルスパイラルがなんとか出来たんだ。このデジモンを実験台に使ってあげるよ。光栄かい? この天才的な発明の実験台になれて?」

「なんだと、ふざけるな!」

「最低! くそダサい! センス悪い! くそ野郎!」

「……口の利き方に気をつけたまえ」

 思いつく限りの暴言を吐くと、カイザーは頭にきたようで眉を歪ませた。カイザーへの口の利き方? これでも優しい方だと思うんだけど?


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