「もう追いつけません!」
「しかし、メタルグレイモンってすげえなあ……」
大輔くんは呆然といった様子で呟いた。やはりアーマー体では、完全体に敵わないのか――。
「どうすれば……どうすればアグモンを取り戻せるんだ……!」
一方太一さんは頭を抱え、項垂れていた。
「……太一さん」
声をかけようとしたそのとき、不意に線路から音が聞こえた。そちらの方を見ると、そこにいたのは――。
「京さん!」
「飛鳥さん!」
「お兄ちゃん!」
トロッコに乗った京ちゃんたちに、私たちは急いで駆け寄った。
「さっきは駄々こねてごめんね」
「いいえ、きっと来てくれると信じてました!」
京ちゃんの謝罪に、伊織くんは笑顔でそう言った。良かったね、京ちゃん。
「俺としちゃ、京ちゃんと飛鳥が残ってくれてて助かったよ。ところで……」
ヤマトさんはトロッコから飛び降りると、私たちにこう尋ねた。
「一体、今どういう状況なんだ」
私たちはこれまであったことを、ヤマトさんたちに説明した。ヤマトさんは顔を顰めつつも、相槌をうちながら聞いていた。
「……そういうことか」
ヤマトさんは息をつくと、私にそっと声をかけた。
「湊海、やってないのか? こう……一発」
「貴方の弟さんに止められましてね」
私は横目でタケルくんを見た。一発食らわせれば、もう少しまともな結果になっていたかもしれないが――あくまで、結果論に過ぎない。それに私、案外太一さんを本気で殴ったことがない。どうなるか分からないという意味では、ヤマトさんの到着を待ったのは正解だろう。
「なるほど……」
「お兄ちゃん、湊海お姉ちゃんにそういうことさせないでよね」
タケルくんはずいっと私の前に来ると、ヤマトさんに指をさした。 今日のタケルくん、何だか保護者っぽい。
「まあ、それもそうだな」
ヤマトさんは苦笑いで私とタケルくんの頭を撫でると、太一さんの方を向いた。
「どうすれば……どうすれば……!」
「太一」
ヤマトさんは、頭を抱えている太一さんに声をかけた。そして太一さんが立ち上がるのと同時に、全力のフルスイングで顔面にグーパンをかます。太一さんは勢いよく、地面に尻餅をついた。
「な、なんで殴るんだよ! アグモンを連れ去られて太一先輩、今すげえショックを受けてんだぜ!? なのに、なんで!」
「待って、大輔くん!」
あまりに突然のことに大輔くんはヤマトさんに詰め寄っていく。しかし、ヒカリちゃんに止められたため、大輔くんはこちらを振り向いた。
「太一」
「ヤマト……」
ヤマトさんはすっと、太一さんに手を差し出した。太一さんは赤く腫れた頬を抑えながらも、微かに笑って、手を取った。
「へっ?」
そんな2人の様子を、大輔くんが驚いた様子で見つめる。
「ありがとうヤマト」
「なに、どういたしまして」
「お陰で、目が覚めたよ。俺が躊躇しちゃダメなんだ。普通にやってもかなうかどうか分からないのに、躊躇なんかしてたんじゃ、絶対かないっこない……。全力で戦わなきゃ、アグモンは取り戻せない」
そう言い切った太一さんは、いつもの頼れる太一さんだった。
「そう。アグモンだってきっとそれを望んでいる。デジモンカイザーの手先になって利用されるくらいなら、倒される方がマシだってな」
「ああ」
太一さんはヤマトさんの言葉に頷くと、こちらを向き直った。
「なあみんな、頼みがある。今度メタルグレイモンと戦う時は、遠慮なんかしないでくれ!」
「……それでいいの?」
「ああ!」
そのヒカリちゃんの問いに、太一さんは力強く頷いた。
「太一の言う通りよ。いいわね、みんな。アグモンを想う気持ちがあるなら、絶対に躊躇しちゃダメよ!」
『了解!』
テイルモンの号令に、ラブラモンたちは声を揃えて返事をした。
「よし、行こう……あっ、これは京さんの役でしたね」
タケルくんは拳を上に突き出したが、京ちゃんの方を振り向くと、にこりと笑いかけた。
「選ばれし子どもたち、出動ー!」
京ちゃんの元気な掛け声で、トロッコは走り出す。――うん、やっぱり掛け声は京ちゃんのが良いな。
「飛鳥くん、ありがとう。京ちゃんを連れてきてくれて」
私は隣に座っている飛鳥くんの方を向いてそうお礼を言うと、彼は首を横に振った。
「ここに来たのは、京の力さ。俺は何もやってないよ」
「そんなことないわよ。飛鳥くん、一緒に残ってくれてありがとう」
「こういうときは素直に好意を受け取るものよ? 飛鳥」
一度は否定した飛鳥くんだったが、京ちゃんとロップモンの畳み掛けにより、ふっと頬を緩ませてこう言った。
「……うん。どういたしまして」
そっと、私たちを支えてくれる飛鳥くん。やっぱり、貴方たちが仲間になってくれて、本当に良かった。