イービルスパイラル


 私たちは京ちゃんのメールを受け、ロコモウタウンに向けて歩いていった。


「あれ!」

 空を飛んでいたパタモンが何かを見つけたようだ。そちらの方を見ると、ダークタワーと建物が密集している土地があった。


「ロコモウタウンだ、間違いない!」

「まるで、鉄道機器等を集めた町ですね」

「待ってろよアグモン、絶対助け出してやるからな……!」

 太一さんは拳を握りしめ、そう決意した。私たちも頷き合い、先へ進んでいく。


「さあ、どっち行くんだ!?」

 太一さんは周りをキョロキョロの見渡した。


「分かれて探す?」

「それがいいと思うな」

 ヒカリちゃんの提案に、テイルモンが同意したそのとき、遠くの方から汽笛の音が聞こえた。


「汽車が来る!」

「あっちか!?」

 ブイモンの声に、私たちはトンネルの方を見た。大きな黒い汽車がこちらへ向かってくる。そして汽車の左側にはアグモンがしがみついてきた。


「あ、あれはアグモン!」

 それに気づいた太一さんが、大声で名前を呼ぶ。


「アグモーン!」

「太一……!?」

 テイルモンは慌てて汽車の進路を切り替えた。運転手がいないため、汽車は勢いよく木の柵にぶつかり、煙を立てながら止まる。


「アグモン! 大丈夫か、アグモン!?」

「太一なの!? 本当に太一!?」

 太一さんはアグモンの方に駆け寄り、しっかりとキャッチをした。


「そうに決まってるじゃないか、無事で良かった!」

「いてて……」

 太一さんはぎゅっとアグモンを抱きしめたが、アグモンはどこか痛いようで顔を顰めた。


「すまない、怪我してたのか?」

「大丈夫、すぐ治るってぇ」

「お兄ちゃん、一旦引き上げましょう。デジモンカイザーが襲ってこないうちに」

 ヒカリちゃんは太一さんにそう言ったが、大輔くんはそれを押し飛ばして太一さんの方へ向かった。


「ちょ、ちょっと待って! せっかくここまで追って来たんだ、それなのに引き上げるなんて……!」

「心配するな、大輔。アグモンをこんな目に合わされて、俺だってこのままじゃ気持ちが収まらないよ。いずれ決着はつけてやる。でも今はまず、アグモンを安全な場所に戻すことが大事だ」

「……太一先輩がそう言うのなら」

 大輔くんはイマイチ納得していないようだが、渋々といった様子で頷いた。

 その後、私たちは線路沿いに帰り道を歩いていった。


「アグモン、傷は痛まないか?」

「大丈夫。ありがと太一」

 太一さんはアグモンを背負いながら、心配そうに声をかけた。

 すると突然頭上から声が聞こえてきた。このうざったいダサい気配がする声は――!見上げると、そこにはカイザーが立っていた。



「一乗寺賢!」

 タケルくんが憎々しげに叫ぶ。


「デジモンカイザーと呼んでくれないかなあ」

「けっ、誰が呼ぶもんか! 賢賢賢っ、一乗寺けーん!」

「へい! カイザー! そのサングラス、ダサかっこいいね!」

 大輔くんと私で煽っていくと、カイザーは不愉快そうに眉を歪ませた。


「一人少々勘違いしている輩がいるが……僕を本気で怒らせたいんだな」

「賢ちゃん、抑えて抑えて。どうどう!」

「……本当に何なんだ、お前は」

 カイザーはこちらをぎろりと睨んだ。何なんだって、湊海だけど。何なの。


「それはこっちの台詞だ! アグモンをこんなにしやがって! 覚悟は出来てるんだろうな!」

 そんな私たちの様子に構いもせず、太一さんは大声で叫んだ。


「……中学生のお兄さんが小学生相手にカッカするなんて、みっともないですね」

「何を!」

「僕はあんたより年下だが、あんたのことを軽蔑する!」

 太一さんに続けて伊織くんも、木の棒をカイザーに向けながら叫ぶ。


「あんたは人間の恥だ!」

 伊織くんはカイザーに向かって木の棒を投げつけた。しかし、カイザーに当たる直前に鞭で砕かれる。……ふむ。なかなかの鞭さばきだが、デジモンを虐めて鍛えたものとなると、見逃すわけにはいかない。


「虫けらに言われてもなんとも思わない!」

 カイザーがムチを叩くと、横にエアドラモンたちがやってきた。地上からはダークティラノモンたちが集まって来る。 私たちは完全に囲まれてしまった。


「大輔、進化だ!」

「わかった! デジメンタルアップ!」

 大輔くんは頷き、D-3を掲げた。


「ブイモン、アーマー進化! 燃え上がる勇気、フレイドラモン!」


「俺もやらなきゃ収まらないだぎゃ!」

「もちろん! デジメンタルアップ!」

「アルマジモン、アーマー進化! 鋼の英知、ディグモン!」

 フレイドラモンはダークティラノモンの炎を受け止め、突進していった。後ろから敵が迫っていたが、うまく対応してリングを破壊していく。


「ビッグクラック!」

 ディグモンの必殺技により、残りのダークティラノモンも地面に落下する。


「ナックルファイヤー!」

 カイザーはフレイドラモンの放った炎を交わし、エアドラモンに飛び乗った。



「私も!」

「ボクも!」

「行かせてください!」

『頑張って!』

 私たちはD-3を一斉に構えた。ここで一気に攻めて、脱出しなければ……!


『デジメンタルアップ!』

「テイルモン、アーマー進化! 微笑みの光、ネフェルティモン!」

「パタモン、アーマー進化! 天翔る希望、ペガスモン!」

「ラブラモン、アーマー進化! 誇り高き慈悲、ムースモン!」

 私たちはそれぞれのパートナーに飛び乗った。


「カースオブクイーン!」

 ネフェルティモンのビームを、エアドラモンは華麗に避ける。


「ホーンブレード!」

 ムースモンの必殺技もひらりとかわされてしまう。


「ニードルレイン!」

 カイザーはぺガスモンの攻撃を受けつつも、怪しく笑いマントで受け止めていた。


「シルバーブレイズ!」

 しかし、その後の攻撃はエアドラモンに見事命中し、カイザーは振り落とされてしまう。


「あとは僕が!」

「待て、アグモン!」

 なんの警戒もせずにカイザーに近寄っていくアグモンを、太一さんが慌てて止める。するとカイザーは、懐から黒い三連になっている輪っかを取り出した。


「残念だなあ、ちょっと遅かったな……イービルスパイラルが完成したんだよ」

 カイザーはイービルスパイラルをアグモン投げつけると、そのまま怪しい赤色の光を放ち、嵌ってしまった。


「な、なんだこれ……ぐっ!」

 アグモンは外そうとしたが、不意に苦しそうな声をあげた。地面に倒れたかと思うと、ゆっくりと起き上がる。


「イービルリングを改良した、イービルスパイラルだ」

「なにぃ!?」

 アグモンの瞳は鈍い赤色に光っている。普段と違う様子のアグモンとわかっているはずなのに、太一さんはヨロヨロとアグモンに近づいていった。アグモンは、口を大きく開けて攻撃態勢に入る。


「危ない!」

 大輔くんが間一髪のところで、太一さんを突き飛ばす。次の瞬間、アグモンはベビーフレイムを放った。


「ダメです、操られています!」

「アグモン!」

「さあアグモン、暗黒進化だ!」

 アグモンはカイザーの声に反応し、右手を高く挙げる。カイザーのD-3が光を放つと同時に、アグモンは青い光に包まれた。そして現れたのは――。


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