いつもの君が良い

 大輔くんたちが出発して少し経った後、テントモンから通信が入った。どうやら、アグモンの居場所が分かったらしい。


「アグモンが見つかったんですか!?」

 お手洗いから戻ってきた京が、嬉しそうに駆け寄った。


「テントモン情報が正しければですけどね」

「私がみんなに知らせます! 場所は?」

 京は泉先輩に代わり、パソコンの前に座った。


「ロコモウタウンという場所です」

「はい!」

 京は、大輔くんたちにメールを送った。これでアグモンが見つかれば良いのだが――。
 メールを送り終え一息つくと、京はこちらを向き直った。


「……飛鳥くん」

「どうした?」

 京は俺を見つめると、がばっと頭を下げた。


「ごめんね、迷惑かけちゃって……!」

「迷惑だなんて思ってないよ。それを言ったら、この前までの俺の方が迷惑かけてた」

 しかし京は納得していないらしい。不安そうに眉を潜ませていた。俺はぽんと肩を叩き、隣の椅子に座って話を始めた。


「……京は、6年生になってから選ばれし子どもになったんだよな?」

 京はこくりと頷いた。D-3を持っている選ばれし子どもとしては湊海と並び、最年長となる。


「これは、俺の持論なんだけど……大きくなればなるほど、恐怖心も強くなるって思うんだ」

「それって……?」

「伊織は小3だろ? 湊海も初めて冒険に出たときは小3だった。怖いって思う気持ちはもちろんあるんだろうけど、小6と小3じゃ捉え方が全然違うよ」

 伊織や湊海たちが適当な気持ちでデジタルワールドに行っている、というわけではない。同じ『怖い出来事』でも、大人の『恐怖』と子どもの『こわい』では全く違う、ということだ。
 伊織たちは賢いから、大人と同じように物事を捉えている面もあるだろうが、それでも今の京とは違う感情を抱いているはずだ。


「そうですね。僕も小4のときに初めて冒険しましたが……。今中1で、初めて行くとなると……どうなってしまうかわかりません」

 泉先輩も神妙な顔つきで俺に同意した。


「大輔くんや太一さんたちは別として、ヒカリちゃんもタケルくんも、もちろん湊海も、迷わず行けるのは以前の経験があったからって思うんだ」

 俺は京の手を握り、頬を緩めた。


「だから、京の戸惑う気持ちは全然恥ずかしがることじゃない。大丈夫だよ」

「飛鳥くん……」

 京は少し驚いた様子で、俺の顔を見つめた。こんな風に言われるとは、思っていなかったのかもしれない。


「俺も同じ意見だよ」

 その声に俺たちはドアの方を見る。そこにいたのは、あの先輩だった。


「ヤマトさん!」

「光子郎、連絡ありがとな」

 石田先輩は、泉先輩の頭をぽんと叩き、俺たちの横にやってきた。


「いえ。場所は飛鳥くんたちに伝えましたので、行くときは一緒にお願いします」

「ああ」

 石田先輩は頷くと、京の方を向いた。


「京ちゃん、俺も話いいかな?」

「は、はい」

 京は姿勢を正し、石田先輩の方を向き直った。先輩はそんな京ちゃんに笑みを零し、口を開いた。


「俺は前の冒険のとき、タケルのことずっと心配だったんだけど……実は慌てふためいていた俺たちより、タケルの方が平然としてたんだよな」

「私もずっと見守ってきたけど、幼い方が何が起きてるのかよく分かんないんだと思う。ようするに受け止め方の問題ね。年齢が大きくなればなるほど、真摯に受け止めちゃうから……」

 ヤマトさんが苦笑いしながらそう話すと、ロップモンも頷いた。ロップモンは、湊海たちと一緒に冒険したようだから、色々知っているのだろう。……まあ、俺も詳しくは知らないのだけど。そのうち教えて貰えるのかな。


「そうよね、飛鳥?」

「うん」

 ロップモンに話を振られ、俺はしっかりと頷いた。



「だから、京。そんなときは俺たちを頼ってくれよ。一応、デジタルワールドに関しては先輩なんだぜ? 京の不安な気持ちは、一緒に背負ってみせるよ」

「そうですよ。僕も相談に乗ります」

「飛鳥くん、先輩……」

 俺と泉先輩の言葉に、京の瞳が揺れる。泉先輩はふっと笑うと、自分の膝元にボロモンを置いた。


「何より貴女には頼れるパートナーがいるじゃないですか」

「京さん……」

 ボロモンは心配そうに、京を見つめる。京はそっと、ボロモンを自分の胸に抱いた。


「ボロモン……」

 京はそう呟いたと思うと、顔をぶんぶんと振り、気合を入れ直した。


「心配かけて、ごめんね。あたし頑張るわ! あなたと一緒に!」

「……ええ、もちろんです!」

 京とボロモンはにこりと頷きあった。一件落着……かな?


「だから時々甘えさせてね、飛鳥くん?」

 2人を見守っていると、京にウィンクを飛ばされる。


「はは、可愛い京の頼みなら仕方ないな」

「とーぜんよ!」

 京はどんと胸を張った。――うん、いつもの京だ。元気いっぱいの明るくて可愛らしい、な。


「じゃあ京ちゃん、飛鳥。そろそろ行こうか」

『はい!』

 ヤマトさんの呼びかけに、俺たちは元気よく返事をした。



「光子郎、留守番頼むな」

「任せてください」

 ヤマトさんは光子郎さんに頷くと、デジヴァイスを構えた。俺たちもそれに倣う。


「じゃあ京。いつもの頼む!」

「もちろんよ!」

 京はにっと笑うと、D-3を力強く握った。


「デジタルゲートオープン! 選ばれし子どもたち、出動!」



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