隠しきれない苛立ち

「わあ! 皆はん、お待ちしとりましたぁ」

 デシタルワールドに着くと、テントモンが私たちを出迎えてくれた。場所は前回と同じところで、スカルグレイモンが暴れた跡が至るところに残っていた。


「ここだったの。ここで、スカルグレイモンに……」

「ああ……」

 ヒカリちゃんの説明に、太一さんが重々しい表情で頷いた。



「けど、相変わらず凄まじい破壊力や」

「でも、頭くるよな。太一さんのパートナーデジモンだと知って、アグモンを捕まえるだなんて」

「……まったく、俺も舐められたもんさ。まさか、小学生にコケにされるとは思わなかった」

 太一さんは大輔くんに頷きながら、そう呟いた。太一さんのパートナーであるアグモンを誘拐し、暗黒進化までさせるとは、本当にいい根性している。太一さんの恐ろしさを知らないんだな、あのダサカイザーは……。


「許せん!」

 すると突然、伊織くんが木の棒で素振りをし始めた。いつもは穏やかな表情をしている彼だが、今日この瞬間に限っては、鋭い顔つきをしている。


「い、伊織? どうしたんだぎゃ?」

「許せない。それに、同じ人間として恥ずかしい!」

 アルマジモンが驚いた様子で伊織くんに訊くと、カイザーへの鬱憤を顕にした。正義感が強く、真面目な伊織くんは尚のことカイザーのことが許せないらしい。


「伊織くん……!」

 そんな伊織くんを見て、タケルくんが声をかける。


「す、すみません……。つい、取り乱したりして……」

 伊織くんはすっと木の棒を降ろした。伊織くんの気持ちはとてもよくわかるが、こんなに感情を出すのは珍しい。今回の事態で、みんな気が立っているようだ。


「ねえ、アグモンはどこに連れて行かれたんだろう」

「それが問題だよな」

 パタモンとタケルくんは辺りを見渡しながらそう言った。消えていった方向はわかるものの、どこにいったまでは何も掴めていない。


「心配しなくてもすぐ見つかるさ。ねえ、大輔」

「そうそう!」

 ブイモンと大輔くんは、みんなを励ますようにそう言った。しかし――。


「気休め言うな!」

「は、はい……!」

 太一さんは厳しい表情で、大輔くんたちを制す。大輔くんたちはすっかり縮こまってしまった。私は少しむっとして、口を開いた。


「お兄ちゃん……」

「太一さん! 大輔くんはそんなつもりで……むごっ」

 私が太一さんに文句を言おうとすると、タケルくんに口を抑えられた。


「何するの!」

 私はタケルくんを睨み、小声で問いかけた。


「あの状態の太一さんに口を挟むなんて無茶だよ」

「……じゃあ、一発決めますかね?」

 私が拳を構えると、タケルくんは苦笑いでその手を抑えた。


「それはもっとダメ。大人しくしてなよ。大輔くんみたいに、とばっちり食らうよ?」

 タケルくんは私の頭をぽんぽんと叩くと、自分の後ろに追いやった。どうやら本格的に太一さんから離れさせるらしい。


「はあ……」

「私も賛成ですよ、湊海様」

 ため息をついていると、下からラブラモンがそう声をかけてきた。


「ラブラモンまで……」

「太一さんが貴女を怒鳴り散らすことはないでしょうが……今はそっとしておくべきです」

「アグモンが連れ去られて焦るのは分かる。私もそうなるもん。もっと酷いかもしれない。むしろよく怒りを抑えてると思うよ……漏れてるけど」

 私はタケルくんの後ろから、太一さんのことをじっと見つめた。


「……でも、一生懸命な大輔くんに八つ当たりするのは許せない。そんなの、ひどいよ」

「そうですね。今日の太一さんは少し……いや、かなり彼らしくないです」

 ラブラモンも太一さんを見つめつつ、小さく呟いた。大輔くん――いや、私たちにとって、太一さんの影響は大きい。太一さんがピリピリしていると、こちらもどうしても怖気づいてしまう。大輔くんは怖気づくことはないようだが、まさにとばっちりを食らっている。
いつもの太一さんなら、こんなことは絶対しない。――だからこそ、私は着いていこうと思ったのだ。


「確かにあんなにカッカしている太一見るの、初めてかも」

「だって、仕方ないよ」

 テイルモンもラブラモンに同調するようにそう呟く。タケルくんは太一さんの方をじっと見据えた。


「とにかくここにいても仕方ないから、どこか近くの町まで情報を仕入れにいきましょう」

「せや、そうしなはれ。わてはまた別行動で、他から情報を集めて来ますさかい」

 テントモンはそう言うと、パタパタと飛んでいってしまった。光子郎さんと同じく、裏方で色々と働いてくれるらしい。ありがとう、テントモン。


「お兄ちゃん、移動しましょう?」

 ヒカリちゃんが優しく声をかけると、太一さんは固い表情で頷き、腰を上げた。



 そのまま近くの町へ移動していると、途中でダークタワーを発見した。


「あの塔をぶっ壊しちゃえ、フレイドラモン!」

「おう!」

 フレイドラモンが意気込んだそのとき、ダークタワーの前の地面から何かが出てきた。



「なんだあれは!?」

「うおおお! 戦慄の大木、ウッドモン! ここから先には……」

「ファイアロケット!」

 フレイドラモンは言葉を遮り、頭突きをかましていく。吹っ飛ばされたウッドモンはダークタワーにぶつかり、ヒビを入れた。


「うわああ! まだ話の途中なの……」

「ナックルファイヤー!」

 フレイドラモンは更に追い打ちをかけ、ダークタワーを破壊した。ダークタワーはウッドモンの方へ倒れていったため、慌てた様子で支えた。


「そりゃあないでしょ!」

 その瞬間イービルリングが外れ、ウッドモンは正気に戻った。


「おーい、デジモンカイザーがどっちに向かったか知らないか!」

「えーっと……えーっと……」

「知ってるのか知らないのか!?」

「確か、あっちの方へ」

 太一さんの切羽詰まった問いかけに、ウッドモンは指をさした。



「そうか、ありがとう! みんな行くぞ!」

「えっ、うわっ、私はどうなるんですか! そこの方助けてええええ!」

 ウッドモンは塔の重みで地面へ沈んでいき、砂の中に埋もれてしまった。ご、ごめんね!


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