敵はメタルグレイモン!

 アグモンがカイザーに連れ去られた翌日。京ちゃんは1日元気がなかった。いつもなら真っ先に駆け寄ってくる彼女だが、今日は自分の机でずっと何か考え込んでいる。


「……京ちゃん、大丈夫かな」

「うーん……」

 私がそう呟くと、飛鳥くんは腕を組んだ。


「今日は太一先輩も来るんだろ?」

「うん。昨日ヒカリちゃんと私で伝えたんだけど……顔色あんまり良くなかった」

「そりゃそうだろうな……」

 私と飛鳥くんは顔を見合わせた。太一さんは私たちに「お前らが悪いわけじゃない」と言ってくれたが、責任は重くのしかかっているように感じる。もちろん私だけじゃない。飛鳥くんや、京ちゃんも……。
私は拳をぐっと握りしめ、京ちゃんに話しかけた。


「……京ちゃん、放課後どうする?」

 京ちゃんは顔を見上げ、私の方を見つめた。その表情は暗く、やはり思いつめているようだ。


「……もうちょっとしたら、行くわ。先に行ってて」

「でも……」

「まあまあ。京だって1人で考えたいとき、あるもんな」

 私は言葉を発しようとしたが、飛鳥くんに遮られた。飛鳥くんは京ちゃんと私の肩をぽんと叩き、いつもの笑顔を見せた。


「湊海、行くよ」

「……うん」

 飛鳥くんに手をひかれ、私はパソコン室へ向かった。京ちゃん……それに太一さん。何よりアグモン。心配で仕方がない。
何とかして、アグモンを助けなきゃ――。



 パソコン室に行くと、既に太一さんと光子郎さんが来ていた。3年生は授業が終わるのが早かったようで、伊織くんもいる。


「お待たせしました」

「少し遅くなっちゃったかな……?」

「大丈夫だよ、大輔たちもまだ来てないし」

 太一さんはパソコン室をぐるりと見渡した。


「……でも、なるべく早く行きたいところだな」

「そうですね……アグモンが心配ですし」

 太一さんの呟きに、光子郎さんが真剣な顔で頷いた。


「そう言えば、京さんは? 一緒じゃないんですか?」

「ん、何か用事があるみたいだ。そのうち来ると思うよ」

 伊織くんの質問に、飛鳥くんはにこやかに答えた。京ちゃんに気を遣い、上手く言ったようだ。


「湊海様、私もアグモンが心配です。早く助けに行かなければ……」

「……そうだね。みんな揃ったら行こう」

 ラブラモンが不安そうに私の顔を見上げた。ラブラモンは私と太一さんがよく一緒にいた関係で、付き合いも長い。なおのこと心配なのだろう。私はラブラモンの頭を優しく撫でた。


「……暗黒進化。前に私が人形だった時も、見たことがあったわ。でも、あんなに歯が立たないなんて……」

 ロップモンが悔しそうに呟く。――スカイグレイモンは完全体だ。アーマー体ではとても敵わない。もし完全体になれたとしても、あれに勝てるかは分からない。それほどにスカイグレイモンは凶悪で、とんでもないデジモンだ。アグモンが進化したものだとは考えられない。

 助けるとは言ったものの、どうすればいいのか……。そう考えていたとき、廊下をバタバタと走る足音が聞こえてきた。ドアの方を見ると息を切らした大輔くんたちが姿を現した。


「おまたせー!」

「遅いじゃないか」

「ごめん、お兄ちゃん」

 眉を潜ませて腕を組む太一さんに、ヒカリちゃんが謝る。


「太一先輩、違うんですよ。ヒカリちゃんが悪いんじゃなく、岡田たちが箒でホッケーごっこなんかしだすから」

「うん、こっちまで先生からお説教食らっちゃって」

「誰だよ、岡田って?」


 大輔くんとタケルくんがフォローをいれたが、太一さんの苛立ちは収まらない。――普段はこんなことで怒るような人じゃないのだけど。


「あ、掃除で同じ班の……」

「いいのよ大輔くん、止められなかった私もいけないんだから」

「でも……」

「本当にいいの。ありがとう」

「そう?」

 ヒカリちゃんはそんな太一さんの様子を察したのか、話を続けようとする大輔くんを、やんわりと制した。



「ところで、京さんは?」

 少し落ち着いたところで、タケルくんが辺りを見渡しながら言った。


「用事があるみたい。もうすぐ来ると思うよ」

「ったく、どこで油売ってんだか……」

「だったら捜しにいったらどうなんだよ!?」

 大輔くんが唇を尖らせ文句を言うと、突然太一さんが怒鳴り散らした。さすがの大輔くんも普段の太一さんとは違う様子に気づいたようで、頷きつつ、教室を飛び出した。伊織くんも後に続く。
しかし、京ちゃんはパソコン室のすぐ側にいたらしく、ゆっくりと入ってきた。


「京さん……」

「京ちゃん」

「……ごめん、遅くなって」

 京ちゃんは先ほどまでと同じく、元気がないままだった。この状態でデジタルワールドに行くのは……少し、危ない。


「さて、これで全員揃いましたね」

「じゃあ、みんな頼む」

「さあ、京。いつものかけ声頼むぜ!」

「うん……」

 京ちゃんは、大輔くんに促されたものの、立ったまま微動だにしなかった。



「どうしたんだ?」

「具合が悪いんですか?」

「そうじゃなくて……」

「はっきり言わなきゃ、わかんないよ」

 みんなが京ちゃんを心配するが、なかなか本心を言い出せないらしい。チビモンは困った表情で、京ちゃんを見上げた。


「京ちゃん……」

「要するに行きたくないんだろ? だったら、無理について来なくてもいい」

「お兄ちゃん……!」

 太一さんの厳しい発言に、ヒカリちゃんは不安げに顔を見上げた。


「勘違いするな。怒ってるわけじゃないよ。俺だって、みんなを危険に巻き込みたくない。最悪、俺と湊海とヒカリだけでも行こうかと思ったくらいだ」

「うん……」

「そうですね」

 ヒカリちゃんと私は、こくりと頷いた。もちろん、力を貸してくれるに越したことはないが、京ちゃんに無理をさせたいとは微塵も思わない。


「いいんですよ、京さん。これは強制でもなんでもないんですから」

 タケルくんも続けて、京ちゃんをフォローした。


「そうかぁ?」

「そうです。僕たちは行きたいから行くんです!」

 大輔くんは首を傾げたが、伊織くんは対照的に胸を張ってそう宣言した。行きたいから、行く。やりたいから、やる。――うん、その通りだ。


「泉先輩、あたし……」

「そうしましょう、みんなもそう言ってくれるんだから。いざという時のために、ここで待機しましょう」

「でも……」

「いいのよ。気持ちの整理がつかないうちは、行かない方がいい」

 光子郎さんやテイルモンも、留まることを勧めたが、京ちゃんはどうも行かないことに罪悪感を抱えているらしい。そんなときだった。


「そうです! そんな気持ちのままで行ったって、みんなに迷惑をかけるだけです!」

 パートナーのボロモンが、厳しい言葉を京ちゃんに投げかける。京ちゃんは申し訳なさそうに俯いた。


「俺も残るよ。何かあったときのために」

 飛鳥くんは京ちゃんの肩をぽんと叩いた。それと同時にこちらにウィンクも飛ばしていたため、どうやら京ちゃんのフォローをしてくれるらしい。
 私は小さく頷いた。頼んだよ、飛鳥くん。
 

「そうね、私たちもいた方が心強いでしょ? 光子郎」

「ええ、お願いします」

 ロップモンは光子郎さんに飛びつきながら、自信満々な様子で胸を張った。確かにロップモンもすごく安心できる。しっかりしているし。



「じゃあ、いつものコールはヒカリちゃんがやって」

 ヒカリちゃんは頷くと、D-3を構えた。私たちもそれに続く。


「デジタルゲートオープン! 選ばれし子どもたち、出動!」

 ヒカリちゃんの掛け声も、とっても可愛くて好き。でもやっぱり――京ちゃんの掛け声が1番安心するな。眩い光に包まれつつ、私はそんなことを考えた。




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