引きこもり

 その翌日、私たちは事のあらましを光子郎さんに報告した。


「一乗寺賢くん、日曜から行方不明になっていたそうですね」

「昨日まで、いなくなってたことがわからなかったんだって」

「もう丸2日ですね……」

 ヒカリちゃんの言葉に、光子郎さんは手を顎に当てた。息子がいなくなってたのに気づかない親もどうかと思うが、いなくなってしまったものは仕方ない。

 光子郎さんはパソコンの前に座ると、デジタルワールドのマップを立ち上げた。


「黒いところが増えている!」

 タケルくんが大声をあげるのも無理もない。以前と比べると、急激に黒いエリアが増えていた。今までこんなスピードで増えたことはなかったのに――。


「一乗寺賢くんは、デジタルワールドにずっと行ったままのようですね」

「えっ? なんで?」

 大輔くんが疑問をぶつけると、光子郎さんは後ろを振り返って答えた。


「向こうに長く滞在して、一気に黒いエリアを増大させる計画なんでしょう」

「それってどういうこと!?」

「あいつ、ひょっとしてこのままデジタルワールドから、現実世界に帰って来ないつもりなのか……?」

 ヒカリちゃんが思わず叫ぶと、タケルくんが冷静に分析をした。


「かもしれませんね……」

 伊織くんは雑誌を見ながら、小さく呟いた。


「ひゅー、さっすがカイザー。やることが違うねえ」

「湊海お姉ちゃん、感心してる場合じゃないよ」

 私がパチンと指を鳴らすと、タケルくんが呆れたようにそう言った。



「ええっ!? 一生デジタルワールドにいるつもりなの? 変なの……」

「……効率的には、違いないさ」

 京ちゃんの発言に、飛鳥くんは小さく呟いた。


「ふむ……」

 私は手を顎に当てて考えた。自分の才能を認められても、両親からも誰からも、自分を見られていないって思っちゃったのかな。もしそうなら、少し可哀想に思えてくる。――しかし、だからと言って、デジモンたちにひどいことをしていい訳では無い。……でもまあ、ちょっと話を聞いてみたい気もするけど。一体どういうつもりなんだろうか。


「何にせよ、手ごわくなることは間違いありません」

「俺たちも行こう!」

「ええっ!?」

 大輔くんの言葉に、私たちは思わず声をあげた。デジモンたちも目をぱちくりとさせている。


「でも、もうこんな時間ですよ?」

 パソコン室の時計を見ると、もうすぐ5時になるところだ。いつもならもう、家に帰る時間である。


「何とかなるさ!」

「……ま、行くっきゃないか」

「とにかく行ってみましょうよ」

「そうだね」

「すぐ帰って来るからいいよ」

「様子を見て、すぐに帰ってきてください」

私たちの様子を見て、光子郎さんは椅子から立ち上がった。いつも心配かけてすみません。


「わかった!」

 大輔くんが頷いたのを合図に、私たちはD-3を掲げ、パソコンの前に整列した。


「デジタルゲートオープン! 選ばれし子どもたち、出動!」

 ――デジモンたちが傷ついていませんように。






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