飛鳥くんとロップモンが仲間に加わった日。デジタルワールドから戻ると、光子郎さんがパソコン室を訪れていた。
私たちは光子郎さんに、昨日までの出来事を説明した。
「あの、デジモンカイザーが……!?」
話を聞いた光子郎さんは大きく目を見開いた。
「そうなんです、天才少年一乗寺賢だったんだ」
「なんか嫌な感じはしたんだ」
大輔くんに続けて、チビモンが口を尖らせる。
「あんなに才能に恵まれて、知能も高い人が、どうしてあんなことをしてるんでしょうか?」
「信じられない……」
伊織くんが不思議そうな様子で疑問を投げ出す。ヒカリちゃんも静かに呟いた。
「そう言えば、この前うちでテレビを付けたら、また出てたよ。一乗寺賢」
「デジモンカイザーがこんな身近にいたんですね……」
タケルくんの言葉に、光子郎さんは手に顎を当て唸った。すると何かを思いついたようで、私たちの方を向いて、こう言った。
「調べてみましょう」
「え? 何を?」
「一乗寺賢くんと、直接コンタクトを取ってみましょう」
タケルくんが首を傾げると、光子郎さんはそう答えた。
「うわあ、どうでもいいけど腹減ったぎゃー!」
「ああ、そうですね。京さん、遅いですね……」
ウパモンの無邪気な様子に、光子郎さんはにこやかに答えた。1回お家に帰るって言ったけど、そろそろ戻る頃かな?
その時、丁度パソコン室の外から足音が聞こえた。扉が勢い良く開き、ニコニコ笑顔の京ちゃんが姿を現した。
「やあやあやあ、君たち待ったせったねー!」
京ちゃんはコンビニの袋を私たちに見せた。その中には色々な物が入っているようで、両手で抱えている。
コンビニ袋を見るや否や、デジモンたちは一斉に京ちゃんの元へ駆け寄った。
「ビーフジャーキー、あれば良いのですが」
「多分持ってきてくれてるよ」
ラブラモンは遠巻きに、コンビニ袋を見つめる。どうやら争いには参加せず、静かになった頃合いで取りに行くらしい。賢い判断である。
「私は、伊織さんのお母さんのかんぴょう巻きがいい!」
「じゃあ、いらないの……?」
「いりますいります!」
ポロモンは最初反抗していたが、京ちゃんがニヤニヤとそう言うと、コンビニ袋目掛けて駆け出した。
デジモンたちは各々自分の好きなものを取ることが出来たようで、幸せそうに食べている。とても可愛い。
「どこまでも和食にこだわるのよね……」
いなり寿司を食べているポロモンを見て、京ちゃんが呟いた。
「あ、それと」
京ちゃんはコンビニ袋を漁ると、雑誌を取り出した。
「これに出てたよ。一乗寺賢」
「なに!?」
大輔くんは京ちゃんから雑誌を奪い取り、パラパラとめくった。
「あっ! 出てる出てる」
雑誌の1ページには、微笑んだ一乗寺くんの写真がでかでかと載っていた。
「これを見る限りでは、とてもあんなひどいことをする人には見えません」
「優しそうな顔をして、笑ってるのに……」
伊織くんが呟くと、ヒカリちゃんも同調して言葉を繋げた。
「まあ、見た目と中身が一緒とは、限らないけどね……」
「でもこの人、顔はいいけど目付きが怖くない? 変態っぽい」
「湊海お姉ちゃん……」
私の発言に、タケルくんは微妙そうな顔つきで私の肩を叩いた。
でも、変態っぽいのは事実だよ。カイザーの格好って変態のそれだから仕方ない。
「見せてください」
光子郎さんは雑誌を受け取ると、まじまじと眺めた。
「ああ、この少年ですか。僕も何度か見たことがあります」
「こういう子を、本当の選ばれし子どもって言うのかね?」
「何でだよ! 頭がよければそれだけで良いって言うのか?」
京ちゃんが雑誌を覗き込みながらそう言うと、大輔くんが反論した。
「頭だけじゃないじゃん。顔だってかっこいいしぃ」
「運動神経も抜群ですよ?」
光子郎さんの背中に隠れつつ、京ちゃんはそう言った。伊織くんも続けて、一乗寺くんを褒める。
「ああ悪かったな! 運動神経抜群じゃなくて!」
「ま、まあまあ。とにかく一乗寺賢くんに接触してみましょう」
荒れ狂う大輔くんを宥め、光子郎さんはそう提案した。
「どうやって?」
「飛鳥くん、一乗寺くんの家がどこにあるか覚えてますか?」
「う、うーん……。3年前に1回行ったきりだからしっかりとは……」
光子郎さんにそう訊かれた飛鳥くんは、首を傾げながら苦笑いで答えた。
「大丈夫です。少しでも覚えているなら確かめられますから」
光子郎さんはPCにCD-ROMを読み込むと、操作をし始めた。
「この雑誌の写真の背景、どこかで見たことありませんか?」
「そう言えば……」
「多分、この写真がこれ」
光子郎さんはPCに出しているマップと、写真の背景を照らし合わせた。すごい、ぴったりだ――!
「あ、わかった……! じゃあこのビルはこれだ!」
ヒカリちゃんがPCの画面に指をさす。
「そうです。つまり……」
「一乗寺賢の住んでいる辺りは、この辺だ」