紋章の力 少し経つと、辺りの空が一気に薄暗くなった。ゲンナイさんたちは離れた場所で私たちを見守った。 「あ、でも、僕たち紋章持ってないよね……?」 「言われてみればそうよね……」 その丈さんの言葉に空さんが自分の胸元を見る。そういえば、紋章自体はアポカリモンに壊されてしまったんだった。どうすればいいんだろう――? 「でも、紋章の力自体は僕たちの心の中に残っているはずです」 「つまりそれをどうにか外に出せば良いんだな!」 「よし! みんな、やってみようぜ!」 その太一さんの言葉に、私たちは胸に手を当てた。 私の中の慈悲――。この世界を救う為に、どうか……。すると私の胸に白色の光が灯った。その光は真っ直ぐ上へと伸びていく。 9つの紋章は私たちの心を飛び出し、空へ向かっていった。そのままデジタルワールドを虹色の光のカーテンで包み込んでいく。 私たちは驚いて、その場に立ち尽くした。 「これで……大丈夫なのか?」 「うむ、無事封印は解かれたぞ。みなの衆、ご苦労じゃった!」 そのゲンナイさんの言葉に、私たちはホッと息をついた。 「じゃあ、またな!」 「元気でね!」 役目が終わった私たちは、現実世界に帰ることになった。別れは寂しいが、会えないという訳ではない。いつかまた、近いうちに――。 「湊海、お主はここに残ってくれ」 「え?」 そのゲンナイさんの言葉に私は思わず声をあげた。みんなも不思議そうに私とゲンナイさんを交互に見つめる。 「後で湊海の家のパソコンから帰ってもらうから、心配は無用じゃ。さあ行くのじゃ、選ばれし子どもたちよ」 「な、何かよく分からないですけど……私の事は気にせず、帰って大丈夫ですよ」 相変わらずこのじいさん、唐突である。私は苦笑いで太一さんたちにそう促した。 「なーんかじいさんが心配だけど……湊海も用事が終わったら、すぐ帰ってくるんだぞ」 「はい!」 私は大きく手を振り、太一さんたちを見送った。 太一さんたちの姿が見えなくなったので、デジモンたちと共にゲンナイさんの家に向かう。家にたどり着くと、私とラブラモンは居間に通された。 「一体どうしたんですか、ゲンナイさん」 「うむ。実はこのデジタマがもうすぐ孵りそうでな」 ゲンナイさんはそう言うと、一つのデジタマを私に持たせた。白にピンクの水玉模様の可愛いデジタマだ。 「これって……?」 「湊海が何回かなでなでしたら孵るじゃろう。やってみ」 「は、はい」 私は頷き、優しくデジタマを撫で始めた。 「なでなで、なでなで……」 昨年もこうやって、デジタマを撫でたっけ。ヒカリちゃんが抱えていたデジタマが丁度写真を撮るときに孵って驚いたものだ。――でも、嬉しかった。この世界が平和になったんだと実感出来て。あのデジモンの赤ちゃんは、正しくデジタルワールドの希望の光だったんだな……。 そんな事を考えていると、デジタマにぴきりとヒビが入る。 「わあ……!」 ポンッと軽快な音を立てたそのデジタマからは、茶色のオタマジャクシのようなデジモンが生まれた。とても可愛い。 「……ひさしぶりだね、湊海ちゃん」 そのデジモンはゆっくりと目を開けると、私にそう声を掛けた。――ひさしぶり? 「……え?」 私は思わず声を漏らした。隣のラブラモンも呆然とそのデジモンを見つめている。 「ふふ、わたしはココモン。しんかをしたら、ロップモンになるよ」 ココモンは親切にそう教えてくれた。色々な感情が込み上げて、頭の中がぐちゃぐちゃになる。まさか、今私の目の前にいるこのデジモンは……。 「……また、あえたね。湊海ちゃん」 ココモンが微笑んだその瞬間、私の目からはボロボロと涙が溢れた。 「……やっと、会えたよ」 私はココモンを力強く抱き締めた。 |