「……また、私の部屋ですね」

 私はぐるりと周りを見渡した。つまりまた、現実世界という訳だ。


『残りもこれを含めて2回。ファイトじゃよ!』

「はいはい。で、今回の年齢は?」

『6年生。ついに最高学年じゃな!』

 6年生――あの中で1番上になると同時に、丈さんとも同い年になる。さて、一体どうなるかな!?


「じゃあ、私学校行きますね」

『慣れたものじゃな。気をつけるんじゃぞ!』

「はーい!」

 私はパソコンを閉じ、朝の準備をして玄関を出た。時間は早かったが、まあたまには良いだろう。


「湊海!」

「湊海先輩!」

「あ、太一くん、空ちゃん!」

 その声に前を見ると、ユニフォームを来た太一くんと空ちゃんがいた。


「よーお前随分早いな」

「太一くんたちこそ!」

「あたしたち、サッカークラブの朝練だったんです」

 空ちゃんはそうにこやかに言った。


「そっか。お疲れ様!」

「湊海は日直か何かか?」

「ううん、そういう訳じゃないけど。何となく、ね!」

 私は頬をかいて誤魔化した。強いて言うならゲンナイさんのせいだよ!


「そう言えば、行く時に丈先輩見かけましたよ」

「丈さ……丈くん?」

「ええ。先輩こそ日直だったのかしら?」

「多分違ったと思うけど……」

 まあこの記憶が正しいかは分からないけど――。アタマポンコツアンドロイドのゲンナイさんのあれだしなぁ……。


「ま、丈は丈で何かあるんだろ。じゃあまたなー!」

「先輩、失礼します」

「うん、またねー!」

 私は太一くんと空ちゃんに手を振った。空ちゃんの敬語なんて、新鮮だな。可愛い。


「あ、湊海さん」

「ヤマトくん?」

 そのまま通学路を歩いていると、今度はヤマトくんと出会った。朝から色々な人と出会うなぁ。


「おはようございます」

「はい、おはようございます! ヤマトくん、早いね!」

「俺日直なんで……湊海さんは?」

「私は何もないけど、早く起きちゃったから! 良かったら、一緒に行く?」

 ヤマトくんが頷いたのを確認して、私は隣に並んだ。それにしてもヤマトくん、年上にはさん付けで敬語なんだね。――あれ、丈くん……? ま、まあ、いっか!


「……湊海さん」

「ん、なに?」

「……もうすぐ卒業ですね」

「あー……うん。そうだね」

 私は空を見上げた。そうか、卒業――。6年生は来年の春、卒業してしまうんだ……。


「でも、大丈夫だよ。丈くんと私がいなくなっても、太一くんたちがいるから」

「……俺は、湊海さんたちに卒業して欲しくないけど」

 ヤマトくんはそう言うと、下を向いた。これは――えっと、今まで見た事ないけど、もしかして、あ、甘えて……?
そうか、私今年上だもんね。ヤマトくん、可愛い所あるんだなぁ。


「ふふ、私もヤマトくんたちと離れたくないなぁ」

「………」

「だからね、待ってるよ。中学校で待ってる」

「……え?」

 私はにこりと笑い、ヤマトくんの頭に手を置いた。


「再来年の春、ヤマトくんたちが入学してくるのを私は待ってるよ。丈くんは違う学校だけど、私はいる。それまで太一くんたちのこと、頼んだよ!」

「……はい!」

 私の問いかけにヤマトくんは大きく頷いた。



「……じゃあ、また。恥ずかしい所見せて、すみませんでした」

 学校に着いた私たちは玄関で別れた。ヤマトくんが深々と頭を下げる。


「あはは、いいよ。気にしなくて。またね!」

 私がそう手を振ると、ヤマトくんは頬を緩め、小さく手を振り返した。可愛いなぁ。
そして私はそのまま教室へ向かった。まだ朝が早いからか、すれ違う児童も少ない。


「おはよう!」

「あ、湊海。早いね」

 教室に入ると、空ちゃんの情報通り丈くんがいた。丈くんに呼び捨てで呼ばれるのは、何だか新鮮である。


「丈くんもね。日直の人は?」

「日誌に取りにいったよ。花の水やりもやるって言ってたし、しばらく帰ってこないんじゃないかな」

「ふうん……」

 私は丈くんの隣の席に腰掛けた。どうやらここでも、ゲンナイさんの謎の力が働いたようで隣である。まあ、いいけどね。
丈くんの机の上を覗き込むと、そこには参考書とノートが広がっていた。どうやら勉強をしていたようだ。


「ごめんね。邪魔しちゃった?」

「いや、大丈夫」

 その間にも丈くんはシャーペンを走らせていた。流石真面目である。


「丈くんは偉いね。こんな早くから勉強するなんて」

「受験生なら普通だよ。これくらいしないと、受かりそうにもないし」

「そ、そんなに厳しいんだ……」

「まーね。……湊海、本当に受験しないの?」

「あ、うん。私はお台場中に行くつもりだよ」

 私がそう言うと丈くんは手を止め、こちらを向いた。


「……何で? 湊海の成績なら、僕の志望校も狙えるはずだよ」

「う、うーん……」

 私は思わず考え込んだ。
正直中学の事なんて何も考えていない。元の世界では丈くんと丁度入れ違いだから同じ学校入っても意味無いし、それなら太一くんたちがいるお台場中にと思っていたのだが――。この世界では事情が違うようだ。


「……僕と同じ中学、行きたくないの?」

「そ、そういう訳じゃないよ? 私は……」

「僕たち、あともう少しで離れ離れになるんだよ」

 その丈くんの真剣な表情に、私は思わず目を逸らした。


「……うん。今日、ヤマトくんにも言われた」

「一緒に来たの?」

「途中で会ったんだ。ヤマトくん、私たちのこと随分慕ってくれてるみたいだったよ」

「……えっ、僕も?」

「そりゃそうだよ。丈くんは、素敵な先輩だからね」

 私はずっと、それを見てきたから――なんて、言えないけどね。


「……で、湊海は何て答えたの?」

「私は待ってるって答えたよ。お台場中で待ってるって」

「……湊海は、太一たちがいるからお台場中に行くって事?」

「……大切な、後輩だからね」

「……そっか」

 丈くんは参考書に目を落とした。しばらく沈黙が続いたが、私は意を決して口を開いた。


「……丈くん」

「……何だい?」

 私は丈くんの手を取り、ギュッと握った。


「……学校が違っても、関係ないよ。私たちは友達でしょ? また一緒に遊んだりしようよ。勉強だって、丈くんとなら喜んでするよ?」

「湊海……」

「丈くんが会いたいって言うなら、いつでも会おう。そりゃ学校がある間は無理だけど放課後とか、休日とか! 会えない時はメールだって、電話だって、何でもするよ!」

 丈くんは呆然と私を見つめていたが、そのうちクスクスと笑い始めた。


「な、何!?」

「ふふ、だ、だって、それじゃあまるで恋人みたいじゃないか!」

「じょ、丈くんが望むならそういうあれでも……」

「ちょっと、誤解を生むような発言しないでくれる? 太一たちに何されるか分かんないから」

 私がおずおずとそう申し出ると、丈くんは眉を顰めた。


「何で太一くんたち?」

「おー流石湊海。ま、それは置いといて」

「置いとくの!?」

「うん。……湊海の気持ちは分かったよ。僕の事、大切に思ってくれてるんだよね?」

「それはもちろん!」

 私が大きく頷くと、丈くんはにこりと笑った。


「今はそれで充分。湊海、卒業した後もよろしくね」

「うん、よろしく!」

 私たちは握手をし合った。大切な友達――だからね!


「その後はゆくゆく、僕の特別になって欲しいな」

「特別ってどういう……」

「そりゃ恋人でしょう」

「恋人っすか……」

 その自然な口調に納得しかけたが、恋人という二文字に気づき、思わず手をバッと離し、後ずさりをする。


「え、ええ……!? じょ、丈くん……!?」

「嫌かな?」

「い、嫌では無いけど……! 心の準備というか、何というか……!?」

「まあ、冗談だけどね」

「だあっ!」

 丈くんのケロッとした表情に私はズッコケた。


「丈くん君ね……どこかのじいさんみたいな事、やらないでくれます!?」

「あはは、ごめんごめん」

 私は丈くんをガクガクと揺らしたが、丈くんは笑うだけだ。この光景もどこかで見た事あるな!?


「……まあ、半分本気だけど」

「な、何が……?」

「お互いもう少し大人になったらね」

 丈くんはそう言って私の頭を撫でた。するとそのとき、教室のドアが開いた。


「城戸くん、湊海ちゃん、おはよー」

「おはよう」

「おはよう!」

 気づけば時間が経っていたようで、クラスメイトが元気よく教室へ入ってきた。廊下からも声が聞こえるので、直にみんなやって来るだろう。


「相変わらず2人とも、仲良いね」

 そのクラスメイトの言葉に私たちは顔を見合わせ、くすりと笑った。


「そりゃあ」

「もちろん!」

『大切な、友達だから!』

 たった1人の、同級生だから。



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