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05. 乱暴な救世主


その時は突然やって来た。
突如けたたましく鳴るサイレンに、あたしはもちろん膝の上のウリムーも驚いて身体を跳ねさせる。抱き留めて床に落ちるのを食い止め立ち上がる。周りも大音量のサイレンに耳を塞ぎながら何が起こったのかときょろきょろと目線を戸惑わせている。
これは……と、壁に掛けられたアジトの見取り図へ視線を投げる。……地下1階、アジトに入ってすぐの場所が赤く光っていた。
「緊急事態! 上のヤツがやられた、侵入者に備えろ!!」
監視カメラの部屋の扉が開き、血相を変えた様子の下っ端が身を乗り出して叫んだ。部屋の中からは怒号交じりの声が飛び交うのが聞こえてくる。
「上のヤツって、土産屋のことか!?」
「ああそうだ! カイリューに破壊光線を撃たれた!」
カイリューに破壊光線を撃たれた。……えっ!?
「破壊光線!? 正気かよ、室内で破壊光線なんか撃つかフツー!!」
後ろから聞こえる誰かの悲鳴じみた声があたしの言いたいことを代弁してくれた。破壊光線の威力はもう体感済みだ、あんな技をあの小さなお土産屋の中で放つなんて……考えただけでも恐ろしい。まさかお土産屋があった部分はもう更地に……?
とにかくそんな危ない奴がアジトに侵入したらしい。……これ侵入というかアジトまるごとぶっ壊しに来てないか!?
「……おい! 何突っ立ってんだ、お前もさっさと動け!」
後ろから肩をどつかれて振り向くと、焦った顔の下っ端がいた。こいつはあたしと同じ日にロケット団に入ってあたしと同じくアジトの見張りを任された下っ端の中の下っ端……のはずだ、確か。全員同じような格好をしているといちいち個人を覚えてはいられない。
「は、はい! 今行きます!」
慌ててウリムーをモンスターボールの中に戻し、部屋の外へ駆け出して行った下っ端の後を追う――――そう見せかけて、あたしはひとり部屋の中に残る。やがて扉が閉まると、ガチャリと自動で鍵の掛けられた音も聞こえた。
部屋の中を見回すと誰もいない、あたしと一緒にここにいた下っ端たちは全員ペルシアン像の元へ向かったらしい。それこそがあたしたちの仕事だ。そして奥に見えるのは慌てて閉め忘れたらしい扉。……腰に付けてあるモンスターボールに触れた。今だ、行くしかない!
「レアコイル! 金属音!!」
勢いよく開け放った扉の中へボールから出したレアコイルを滑り込ませた。すかさず両手で両耳をしっかり塞いでレアコイルに向かって叫んだ後、部屋の中は文字通り地獄絵図となった。……ズバットに思い切り超音波をやらせていた頃が懐かしい。
「ぐっ……!? なんだ!?」
頭を抱えながらもがき苦しむ黒ずくめたち。今まで監視カメラの映像に集中していた、少し位が高いらしいロケット団の下っ端たち。何とかこの不快な音を発生させているポケモンとそのトレーナーを認識した一人があたしに向かって叫ぶ。
「おい、お前! 何をしている!!」
深めに被られた黒いハンチング帽の中に、この事態に動揺しているような揺れる瞳を見た。そこには少しの恐怖も混じっているように見えて、あたしは自分の気分が高揚していくのを感じた。
今日までこの黒ずくめどもをどこか怖がってきたけれど、これからはそうはいかない。何だか無性に楽しくなってきて、勝手に笑いだしてしまう。わざとゆっくり部屋の中へと足を踏み入れながら、じっくりと地獄絵図を堪能する。あたしはもう騒音被害には慣れっこだけど、さすがに普通はこうなるか。立っていられずしゃがみ込んであたしを見上げるいくつもの視線にはもう既に疲労の色が滲んでいる。
「そんなに怒らなくてもいいじゃん、10万ボルト撃ち込まないだけありがたいと思えよ……っと!」
「くそっ、外したか!」
気配を感じて横に飛び退くと、丁度あたしが立っていた場所に小麦色の大きなネズミがいた。全身の毛を逆立てて、あたしに向かって牙を剥いている。ラッタだ、あたしの隙を突いて下っ端の中の誰かがあたしをこいつに襲わせようとしたらしい。今こいつがあたしにやろうとしていたのは、噛み付く……いや、ラッタだし必殺前歯?
「人間相手にポケモンの技直接ぶつけてくるのはさすがに人の道外れすぎてない?」
腰を落としてラッタと真正面から向かい合いながら、金属音を出すのを止めてバチバチと別の不穏な音を鳴らしているレアコイルを手で制止する。ラッタだけにその攻撃を当ててくれるんならいいけどさ、お前絶対周りも巻き込むだろ。
「うるせえ、ロケット団のくせに今さら何言ってやがる!」
「……確かに!」
ヤジのような声に思わず納得してしまう。そうだな、今のあたしはロケット団。だったら多少の悪さくらいは許されるんじゃないか? どちらにせよ……。
「まっ、そっちがその気ならあたしもきっちりお相手するだけなんだけどさ……!!」
レアコイルを抑えていた手を下ろし、腰に両手を当てる。金属音から回復しかけた下っ端たちが次々とボールを手に取るのと同時に、あたしも両手で1つずつボールを掴む。ボールから出てきた2匹は先に出ていた1匹に負けず劣らず、闘争心剥き出しだ。
「……レアコイル! ヘルガー! ウリムー! ポケモンたちは任せた、あたしは……」
似たようなポケモンが部屋の中を埋め尽くす中で、あたしの心は歓喜に溢れていた。……やっと、ロケット団のアジトで大暴れできる!
「あたしは、悪人退治と行きますか!!」
我先にと黒ずくめの中に飛び込み、握り拳を作った右腕を後ろに引く。呆気にとられたようにぽかんと口を開けたその下顎目掛け、拳を突き上げた。

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