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「リンさん、お待ちどおさま! お預かりしたクロバットですが、特に異常はありませんでしたよ!」
「そうですか! よかった……」
ジョーイさんからクロバットの入ったボールを返されて、とりあえずほっと一息つく。地上に降りてクロバットをボールの中に入れ、駆け込んだのはチョウジタウンのポケモンセンター。急いでジョーイさんにボールを預けて体調を確認してもらっていたけれど、異常がないなら何よりだ。心配させやがって、とピンク色のボールをコツンと指で軽く叩く。
「フスベシティからコガネシティまで空を飛ぼうとしていた途中で、具合が悪くなった……ということでしたよね?」
「はい、なぜか急に身体を強張らせちゃって……」
「そうですか……」
ジョーイさんは何やら神妙に考え込んでいる。そうだ、クロバットの体に異常がないということはわかったけれど、そうなるとなぜ上空でクロバットが急に動きを止めたのかがわからない。周りに他のポケモンがいたわけでもない、あのだだっ広い上空でクロバットは何を感じ取っていたのか……。
「……クロバットといえば」
「えっ?」
ポツリ、とジョーイさんが小さく呟いた。無意識に口にしていたらしくあたしが反応したことに驚いていたけれど、少し迷ったのちに考えの続きを話してくれた。
「クロバット、というかズバットといえば……スリバチ山のズバットが、夜になるとたまにチョウジタウンにまでやってくるんですけど、昨日見たとき少し様子がおかしかったんです」
スリバチ山といえば、チョウジタウンとエンジュシティの間にある山のことだ。その内部には東西に通り抜けられるような洞窟が広がっていて、あたしもエンジュからチョウジに来る際にそこを通って来た。ただ通り抜けるだけならば大した苦労もせずに済むけれど、奥深くまで探索するつもりならばそれなりの準備と覚悟が必要……そんな場所だった。そしてその洞窟の中にはジョウト地方のほかの洞窟と同じく、たくさんのズバットたちが生息している。
それで、何だって? スリバチ山のズバットたちの様子がおかしい?
「なんというか、何かを感じてすぐに引き返したみたいで……」
スリバチ山から来たズバットたちがチョウジタウンにやってきて、けれど何かを感じてすぐに引き返した。フスベシティからやって来たあたしのクロバットは、何かを感じて上空で動きを止めた。その時クロバットがいたのは、ここ……チョウジタウンの上空だった。そしてチョウジタウンへと下りることにあまり気が進まない様子にも見えた。
――クロバットも、チョウジタウンに何かを感じていたのだろうか。
「他にここ最近変わったことってありました?」
あのクロバットの異変には、チョウジタウンという場所が関わっているかもしれない。そう思ってさらに聞いてみると、ジョーイさんは口元に手を当ててまた考え込むような仕草を始めた。
「そうですね……そういえば、怒りの湖のコイキングたちが騒がしいですね」
怒りの湖。チョウジタウンから北へ進んだ場所にある大きな湖だ、確か。とにかく早くジムバッジを集めようと旅を急いでいたから訪れないどころか興味すら沸いていなかった。
「あそこにはギャラドスも生息しているんですけど、それより圧倒的にコイキングの数が多いせいかあの湖は比較的穏やかな場所なんです。それなのに……最近は、いつもは大人しいはずのコイキングたちも何だか殺気立っているような感じです」
ギャラドスの凶暴性に関してはフスベジムで十分に体感している。けれど、コイキングまで殺気立っているというのは……弱いポケモンの代表格といったイメージもあるし、あまり想像がつかない話だ。
「それも、原因はわからないんですよね?」
「はい。私も気になっていたので色々調べてはいるんですが、まだなんとも」
あたしが最初に――ジム巡りの途中でチョウジタウンを訪れたときには、こんな異変は起こっていなかったはずだ。そういった話も聞かなかったし、クロバットだって元気にしていた。……あたしがチョウジを一旦離れてから、一体何があったんだろう。
考えを巡らせ黙り込んでいたあたしに、ジョーイさんがおずおずと切り出した。
「最近のチョウジタウン周辺のポケモンたちの異変と今回のクロバットの異変、これらには関係があるかもしれない……そう言いたいんですよね?」
「……はい、なんとなくそんな気がするだけですけど」
コイキングのことはわからないけれど、スリバチ山のズバットたちとあたしのクロバットのことについてはきっと関係がある。ズバットとクロバットという種族の共通点に加えて、チョウジタウンへと近づいた際の反応までもが共通している。
「……確かにその可能性は十分にあります。こちらでももっと詳しく調べておきますね」
「ありがとうございます!」
「いえ、ジョーイとして当然のことですから!」
ジョーイさんの頼もしい言葉を聞きつつ、手の中のボールをまた撫でた。

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