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「それにしてもこれ、どこへ向かってるんですか? ロケット団の姿も見えないですけど」
段ボール箱の山に隠されていた通路の先は、さらなる通路。ただ人影がどこにも見当たらない。一応辺りを警戒しながら男性の後へと続く。
「ロケット団についてはわからないなあ……ただここについてのことならある程度わかるよ!」
「はあ……」
言っている内容とは裏腹に、何とも信用し辛い。この人結構年取ってるはずなのに、何だこのゆるゆる具合は。どこかの社長さんと言ってもいいような身なりをしているからギャップが物凄い。道に迷っている様子はないから本当にこの倉庫については詳しいらしい、けれど。
「それに、元々この倉庫が繋がってたのは地下通路じゃなくて…………」
――言いかけたところで、目の前に人が現れた。何か声を上げる間もなく、目の前の少女はあたしたちを指差し言い放った。
「――ロケット団!! 覚悟しいや!!」

「――――アカネちゃん!? えっ、なんでここに!?」
一呼吸遅れて、何とか驚きを口にすることができた。そう、目の前であたしたち――いや、あたしを指差してそう言い放ったのは間違いなくアカネちゃん。かつてバトルをした、コガネシティのジムリーダーだった。あたしたちをここまで案内した男性もあたしの横で立ち止まっているシルバーのことも目に入らないようで、アカネちゃんはただあたしを睨みつけている。
「うちの名前は知っとるみたいやな。せやけど馴れ馴れしいのは気に喰わん、大人しゅううちらの餌食になりや!!」
「あああ! 待て待て待て!!」
悪い笑みを浮かべてモンスターボールを取り出したのが見えたところで、あたしは慌ててハンチング帽を剥ぎ取りアカネちゃんに近付いた。ああもう、この格好のせいなのはわかってるけど、最近こんなのばっか!!
「あたし! リン! ジム戦の後に一緒にランチしたリンです!! えーと、ほら!!」
顔の半分を覆う前髪を片手で上げ、いつもヘアピンが刺さっている場所で固定する。視界が明るい、これでいつものあたしの顔だ。そこでようやく、アカネちゃんの目が大きく見開かれた。
「……ええ!? リンちゃん!?」
「そう! 久しぶり!」
よかった、覚えてくれてた! 再会にあたしたちは喜んでいた――けれど、アカネちゃんが嬉しそうな顔をしたのは一瞬だけで、すぐに不安げなものに変わる。
「リンちゃん、まさかやけど、ロケット団やったん……?」
「違う違う……ああいや、確かに今はロケット団の格好してるけど、これには深い深ーいわけがあって……!」
ああー、全く説明が難しい! どこから話せばいいんだ! 言葉に詰まっていると、軽く肩が叩かれる。
「アカネちゃん、大丈夫だ。この人たちは私がロケット団に捕まっていたのを今しがた助けてくれたところなんだよ」
あたしとアカネちゃんの間に入るように躍り出たのは、あの男性。にこにこと温かな笑みを湛える様子に、アカネちゃんがまたその目を丸くさせた。
「あれっ、局長さん!? 何でここに!?」
「局長さん?」
この2人は知り合いだったらしい。聞こえてきたこの男性の呼び名をそのまま聞き返せば、アカネちゃんは戸惑いながらも男性を指差した。
「そ、そうや? この人、ラジオ塔の局長さんやねん」
「ええっ!?」
なんだそれ、初耳だぞ!? 男性――もとい、ラジオ塔の局長を見れば、きょとんとした顔と目が合った。あれ、言ってなかったっけ。そう言いたげな表情だ。……そろそろこの人にちゃんとツッコミ入れるべきな気がしてきた。それも激しめのやつ。
「うーん……なんやわからへんけど、わかったわ。つまり、リンちゃんはうちらの味方なんやな?」
腕を組んでひとり頷き、アカネちゃんがまっすぐ視線を投げて来る。それを受けてあたしは急いで首を縦に振った。
「そう、そういうこと!」
「やったらええわ! はあー、安心したー!」
笑顔で胸を撫でおろすアカネちゃんを見て、あたしもほっと一息つく。とにかく誤解を解くことができてなによりだ。
「局長さん助けたってことは、今逃げてるとこやんな? せやったら、一緒に行こ! いつまでもこんなとこおったらまたロケット団に捕まるで!」
「うん……ってアカネちゃん、どこ向かうつもり?」
「どこ、って……そんなんコガネ百貨店に決まっとるやろ?」
「コガネ百貨店……?」
コガネ百貨店。もちろんあたしも行ったことのある、ジョウトでいちばんの商業施設。……いやいや、ジムリーダーがいるのになんでそんなところに。普通コガネジムとか、ポケモンセンターとか……ああ、ポケモンセンターはもうダメなんだっけ。
考えが顔に出ていたのか、アカネちゃんがあたしを見て首を傾げた。
「えーと……もしかしてリンちゃん、知らんかった? ここ、丁度百貨店の真下やで?」
「――えっ?」
――――なんだって? コガネ百貨店の真下??
「……ふふっ、まあ、歩きながらちょっと説明しよか」
固まってしまったあたしを見たアカネちゃんは、今度はこらえきれなかった笑みをいくつか零していた。

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