3/4

「レアコイル、10万ボルト!!」
近くに立っているあたしまで感電してしまいそうな、強力な電撃。そんな10万ボルトをくらって、カイリューは苦しそうにもがいている。さすがうちのレアコイル、技の威力は一級品だ。
カイリューに代わって扉の前で仁王立ちしている男の顔を盗み見ると、その表情はレアコイルがカイリューと相対したときから変わらない。鋭い眼光をそのままに、男は右腕で空を薙ぎマントをはためかせる。
「カイリュー、雷!」
避ける間もなく太い稲光が突き刺さり、たまらずレアコイルは電撃を止めて後ろへと下がった。
「レアコイル!」
あたしの真横で鋼の身体にバチバチと火花を散らせながらも、レアコイルは相変わらずの無機質な無表情だ。……わかるよ、まだ全然余裕みたいだな。お前の表情くらい簡単に読み取ってやれるさ。よく見ればころころ表情変わってるし。それに電気タイプのレアコイルに雷なんてご馳走みたいなもん……。 
「もう一度、雷だ!」
「うおっ!?」
丁度あたしとレアコイルの間に稲妻が走り、あたしは慌ててその場から飛び退いた。……いや、間というより確実にあたしのいた場所に近かった。間近で轟いた雷鳴で耳が痛む、飛び退いた拍子に軽くぶつかった机に手をついて息を整える。
外したんだよな!? レアコイルを狙って、結果外したんだよな!? 雷って確かに命中率の安定しない技だった気がするけどもうちょいであたし丸焦げだったぞ!?
「殺す気か!?」
悲鳴混じりに非難の言葉を投げつけても、男はただ鋭くこちらを睨むだけだ。
「殺されたくないなら、大人しく言うことを聞くんだな」
「お前それ――」
――明らかに悪者のセリフだったぞ今の!?
唖然として、次に続くはずの言葉が喉の奥で立ち往生する。……もうこれ言うだけ無駄な気がする。だってこいつはロケット団相手とはいえ人間相手に破壊光線ぶっ放すような奴だ、ロケット団の下っ端の格好をしているあたしに雷を誤射しそうになるなんてよくあることだ、たぶん。……本当にこいつロケット団側の人間じゃないのか? それかあれだ、ロケット団とは別の悪の組織の一員とかだろ。
「無駄口を叩くなんて随分余裕そうだな……カイリュー、竜巻!」
「うっ……ソニックブーム!」
カイリューが腕をぶん回すと、空気の渦が生み出される。……よくその短い腕で竜巻なんかできたな!? その長い尻尾でやった方がよかったろ!? そして1発だけでなく、両腕で連続していくつも竜巻が生み出される。この狭い地下室で、たくさんの竜巻が暴れ回っている。足元をすくわれないようにあたしも必死に踏ん張った。……ツッコミなんかを入れている場合ではない。
空中のレアコイルは器用に空気の渦を避けながら、同時にソニックブームを連発して自身に向かってくる竜巻たちを退け、今のところは何とかやり過ごしている。今のところは。
そこから状況を打破することができない。竜巻に飲み込まれることは阻止できても、竜巻自身を消すことができない。今のレアコイルのソニックブームでは威力不足ということだ。というかそもそもソニックブームって威力が固定の技だったし仕方がないのかもしれない。なら、竜巻のダメージをくらうのを覚悟で直接カイリューにドカンと撃ち込むか?
「カイリュー、雷!」
あたしが考え込んでいる間に、竜巻たちの間に亀裂が走る。
「レアコイル、下がれ!」
慌てて指示を出すと、間一髪避けることができた。……油断も隙もありゃしない、レアコイルもこの場を凌ぐのに精一杯のようだ。
「ほんと正気かよ……!」
実力差があるだろうことは最初からわかっていたけれど、ここまでとは。ジョウトのジムバッジを全て手に入れて、バトルにはそれなりに自信が付いていたのに。まだまだあたしは弱いってことなのか? 肝心なところで戦略が思いつかない。
仕方ない、こうなったら……!
もうひとつモンスターボールを手に取り、ボタンを押して出てきたポケモンに間髪入れず指示を飛ばす。
「ウリムー、氷の礫!」
空中にいるレアコイルの丁度真下についたウリムーが生み出す氷の塊が、竜巻の間をすり抜けてカイリューへとぶつかる。氷の礫のスピードなら、竜巻に弾かれることなくカイリューまで届く。
「そのまま氷の礫! レアコイルは援護よろしく!」
レアコイルが竜巻を防いでいる間に、ウリムーがカイリューを叩く。……これがダブルバトルならかなり上手くやれているのに。2対1で卑怯だなんて、今の状況ではそんなことには構っていられない。そもそもこれはバトルではないのだ。
それに荒れ狂う竜巻の間を縫って目を凝らすと、ウリムーの氷の礫をものともしないカイリューが見える。次々と竜巻を生み出しながらも器用に氷の塊を避けている。それでも何発かは当たっているはずなのに……。
「……そろそろ観念したらどうだ?」
あたしの焦りを見抜いたかのように、男は淡々と告げる。ギクリとした。2匹相手に互角の勝負をしているカイリュー相手に、これ以上の策が思い浮かばなかった。あたしの手持ちポケモンはまだまだいるけれど、この部屋のスペース的に場に出せるのは2匹が限界だった。さらにはあたしの脳みそのスペック的にも限界で、正直これは『詰み』というやつだ。
それでも、ここで諦めるなんて選択肢は選びたくない。苦し紛れに竜巻の向こうの男を睨むと、あたしのものより数段強い眼光が襲ってくる。そのまま男は口を開いた。

|

back

人気急上昇中のBL小説
BL小説 BLove
- ナノ -